(読売 2月9日)
北極海で、海氷の急激な減少が続いている。
観測史上最小の水準にある海氷域。
地球の気候システム全体に影響を及ぼしかねない変化が起きている。
中国の砕氷船「雪龍」は、薄氷を裂いて進んだ。
昨年8月、北緯85度付近の北極海。
中国人やフランス人の研究者たちに交じって、船上で氷の状態を
調べていた北見工業大学助教の舘山一孝さんは、
「ある程度は予想していたが、ここまでとは……」
氷があまりに少なく、状態も様変わりしていた。
この海域は、北極点まで約500キロ。
例年は、夏でも分厚い氷に覆われている海域なのに、
その表面には黒っぽいまだら模様が浮かびあがっていた。
氷のない海面に顔を出すアザラシをエサにするホッキョクグマも、多数目撃。
黒い模様の正体は「メルトポンド」。海氷の表面が解けてできた池。
海面まで突き抜けた領域も目立った。
2005年に北極点の縦断観測に参加した経験もある舘山さんの目には、
これほど高緯度の海氷域に多数のメルトポンドがある光景は、異様。
一昨年、北極海の海氷面積は観測史上最小を記録し、
昨年も過去2番目に小さい規模に縮小。
極点周辺にまで及ぶ多数のメルトポンドは、海氷面積の減少とともに、
北極海の変貌を映し出していた。
海氷の減少が懸念されるのは、それが北極海だけでなく、
地球全体の気候に大きな影響を及ぼす可能性がある。
地表の気温は、太陽から受け取る熱と反射して宇宙に放出する
熱のバランスで決まる。
白い氷は太陽光をよく反射するが、青黒い海面は太陽光を多く吸収。
虫めがねで太陽光を集めると、白より黒い紙の方に火が付きやすいのと同じ。
海洋研究開発機構研究員の猪上淳さんによると、
氷のない海面が太陽から受ける熱の94%を吸収、氷はわずか9%。
表面が解けただけとはいえ、メルトポンドの熱吸収率も55%に。
白い北極海が黒く変わることで、温暖化が加速される可能性がある。
舘山さんは、メルトポンドが海氷面積の20%を超えた海域を
「メルトポンドがある海域」と定義、宇宙航空研究開発機構が地球観測衛星に
搭載したセンサー「AMSR―E」のデータを使って、その変化を調べた。
メルトポンドの面積は例年、海氷の融解期の終わりに当たる8月中旬に最大。
海氷全体の面積に占める割合は昨年8月、AMSR―Eがデータを取り始めた
2003年以降で過去最高の54%。
注目されるのは、「メルトポンドがある海域」が昨年初めて、
北極点に達した可能性があること。
メルトポンドがある海域を地図上で赤く表示、北極点周辺も真っ赤に染まった。
米コロラド大のジェームズ・マスラニク教授らの研究チームが
一昨年発表した調査報告によると、北極海で5年以上解けずにいる
「多年氷」に覆われた海域の面積は、2007年まで25年間で56%も減少。
北極点を取り囲む中央部での減少率は88%、
9年以上の多年氷はほとんど消滅。
海氷は、融解期に解けずに生き延びた「多年氷」の方が、
新しい「1年氷」よりも厚い。
研究チームは、「多年氷」が「若い氷」に置き換わった結果、
海氷の平均的な厚さは、25年間で2・6メートルから2メートルに薄くなった。
黒く、そして薄くなる北極海の海氷域。
その下の海水にも、じつは変化の予兆が表れ始めている。
◆砕氷船「雪龍」
中国極地研究所所属の調査船(2万8000トン)、南極観測にも使われる。
全長195メートル、幅26メートル、高さ40メートル。
研究者と乗員合わせて120人が乗り込む。母港は上海。
3回目の北極航海となる昨年は、7月11日に上海を出港。
中国、日本、韓国、フランスなどの研究者も乗り込んだ。
中国は、北極基地をノルウェー北部スバールバル諸島に設置、
観測に力を入れている。
http://www.yomiuri.co.jp/eco/kaihyou/ka090209_01.htm
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