2009年3月2日月曜日

理系白書’09:挑戦のとき/5 九州大特任准教授・杉原知道さん

(毎日 3月1日)

人間のように、しなやかに動くヒト型ロボットを作りたい。
そうやって作ることで、ヒトの知能の謎が初めて分かるのではないか。
「介護用とか家事用とか、何の役に立つのかをあれこれ考える前に、まず作る。
うまく動けば用途は、いくらでも思いつくはず」
前のめりな研究姿勢を、自ら「クラフトマンシップ(職人かたぎ)」と呼ぶ。

タップダンスを踊るロボットを作り、05年「愛・地球博」に出品した経験。
母校の常勤ポストをなげうって07年、九州大の新制度
「次世代研究スーパースター養成プログラム」の
学術研究員(特任准教授)に移籍。

成果次第で正規の准教授登用も夢ではないが、
5年間の任期が終わって「お払い箱」となるリスクも。
「本当にいいの?」と仲間に言われたが、
自分一人で一から作る「時間と自由がほしかった。
やりたいことが、今はドンドン出てくる時期だから」
放置されていたヒト型ロボットの自作1号機だけが、九大への「嫁入り道具」

小学2年生のころから、パソコンゲームを改造して周囲を驚かせる
「典型的なパソコン少年」。
次第に「もっとすごいもの」でないと満足できなくなり、
やがて「人間ほど賢いもの」を作るのが夢に。
目標を人工知能からヒト型ロボットに変えたのは、大学2年の時。

ロボットの世界では、企業が強力。
杉原さんが進路を決めた直後の96年、「ASIMO」の前身となる
本田技研工業のヒト型ロボット「P2」の登場に圧倒。
ロボットが職人芸ではなく、工学研究の一分野だと認められる雰囲気に
大学が一変した。

「成功した組織は、次の失敗は許されなくなり、
やがて大胆な冒険は避けるようになるはず。その点、独り身は気楽」

プログラムに従って、なめらかに動かすだけではなく、
跳びはねて着地したり、転びそうになった時のとっさの動きなど
極めて複雑な情報処理と身体制御を、連動する数十個のモーター群と
それを動かす何本かの方程式で形にすることを目指す。

人間は、環境に対して本質的には受け身な存在。
外界に働きかけるだけではなく、外界から押し返される力に
柔軟に応じる動きができて初めて、私たちが身近に感じるはず」
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◇すぎはら・ともみち

さいたま市出身。情報理工学博士。04年、東京大大学院を修了、
同大学院知能機械情報学専攻助教を経て07年6月から現職。
電気電子学会(本部・米国)の最優秀論文賞を05年に受賞。

http://mainichi.jp/select/science/news/20090301ddm016040025000c.html

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