(2009年5月29日 毎日新聞社)
年間の自殺者が、08年まで11年連続で3万人超。
遺書などで原因・動機を特定できた2万3490人のうち、
「病気の悩み(うつ病)」が3割近くでトップ。
30歳代などの若者で増えている。
誰もがかかる可能性のあるうつ病の症状や治療法などについて、
医療法人青樹会・城南病院(徳島市)の森井章二院長に聞いた。
--うつ病とはどんな病気か?
森井院長 50年前は、抑うつ感情、不眠、性欲減退が三大症状。
最近は、多彩な症状を持つようになっている。
基本的な症状として、喜びや悲しみを感じない、感覚が鈍麻する、
悲観的な考えから抜け出せなくなる、こと。
--症状は?
森井院長 不眠は90%以上のケースで出る。
抑うつ感、無気力感、無能感、食欲不振、疲れやすい、
手足がしびれる、口が渇く。
肩がこったり、便秘を訴える人も。
もう一つ大切なのは、不安、焦燥、イライラ感。
多くは不安愁訴を持っており、これが自殺を誘発することがある。
一過性に認知症のような知能低下を示すことも。
--患者数は急増しているとか。
森井院長 非常に増えている。100万人、200万人とか言われ、
精神科だけでなく、内科や脳神経外科、婦人科など
正確な患者数はつかめない。
出現頻度は人口の10%弱。
患者数は女性が多いが、自殺は男性が多い。
--増えている理由は?
森井院長 三つぐらいある。
一つ目は、うつ病にかかりやすい高年齢者が増えていること。
二つ目は、環境ストレスの増加。
もう一つは、うつ病を起こしやすい薬剤の使用。
環境ストレスでは、個人や家族に関する出来事、職業に起因。
最も大きいのは近親者の死亡、とりわけ配偶者。
結婚や病気、事故、家庭の不和、更年期など。
引っ越しも契機に。
転勤、転居、火災や過労、家庭内の経済問題も大きなウエート。
職場では、異動や配置転換、昇進、左遷、退職、定年。
仕事の内容の変化や、病気による欠勤、再出勤などがきっかけに。
--診断基準は?
森井院長 病気の診断基準を定めたICD(国際疾病分類)がある。
定型症状は、(1)抑うつ気分、(2)興味と喜びの喪失、
(3)活力減退による疲れやすさ--の3点。
一般症状は、(1)集中力と注意力の減退、(2)自己評価と自信の低下、
(3)罪悪感と自己無価値感、(4)将来に対する悲観的見方、
(5)自傷あるいは自殺の観念・行為、(6)睡眠障害、(7)食欲不振--の7点。
定型症状が二つ、一般症状が二つ該当すれば、軽症うつ病と診断。
定型症状が二つ、一般症状が三つの場合、中等度うつ病。
定型症状が三つ、一般症状が四つあてはまる場合、重症うつ病。
軽症うつ病は、家庭的・社会的・職業的な行動がいくぶん困難な状態。
中等度はかなり困難、重症うつ病はほとんど不可能。
--うつ病は精神面以外の要因もあるか?
森井院長 身体的な病気が原因で発症することも。
がんやパーキンソン病、認知症、関節リウマチ、心臓と脳の血管疾患。
うつ病を起こしやすい可能性のある薬物も。
心臓の薬や、てんかんの抗けいれん剤など。
パーキンソン病の治療薬、ステロイド、経口避妊薬、アルコールも。
--治療方法と注意点は?
森井院長 治療法は、休養、薬物療法、精神療法がある。
休養が一番。
休むように言っても、「自分の仕事が滞ったら会社に迷惑をかける」と。
休養には、入院治療も含まれる。
早期の段階で的確に診断し、早く完全に治癒させる目的で入院してもらう。
「入院するほど悪いのか」、「二度と治らないのでは」とよく聞くが、
「よほどのアクシデントが起こらない限り治る」と説明。
よほどのアクシデントというのは、自殺。
病院で休んでいただくのが最もいい方法。
--ほかには?
森井院長 二つ目は、薬物療法などの身体療法。
薬としては、抗うつ剤。「SSRI」という神経系の薬が主流。
セロトニン、ノルアドレナリンなど神経伝達ホルモンの枯渇がうつ病の原因。
抗うつ薬は、こうした成分の働きでもって回復させる。
「SNRI」という薬も、抗うつ作用のほか、意欲を増してもらう目的。
以前から使用している三環系・四環系の薬なども使っている。
ただ副作用がある。
食欲不振や消化器系の症状、発汗とか出るケースも。
一番多いのは口の渇き。便秘と催眠作用が起きる場合も。
副作用を勘案しながら投与の分量や種類など細かく対応。
薬を早く切り上げると、再発の可能性が残る。
医師の指導により、かなり長期に服用する必要。
電気けいれん療法や、光線が少ないことが原因で
冬に出やすいうつ病については光を照射する治療法も。
--精神療法は?
森井院長 精神療法は、患者の聞き役になり、患者をよく理解。
患者を支え、注意して見ていく。
精神療法なくして治療は成り立たない。
当を得た人間的な接触がなくては、いけない。
認知療法は専門的治療で、物事のとらえ方のひずみや、
解釈のひずみを日記などを書いてもらい矯正していく。
手間がかかるが。臨床心理士によるカウンセリングを併用する場合も。
--周囲の人が注意すべき点は。
森井院長 自殺が一番恐ろしいので、家族に「よく注意をして下さい」と指導。
症状が良くなりかけた時に、自殺するケースが多い。
危険なので、睡眠剤も2週間以上は出さない。
薬の管理も家族にお願いする。
しった激励は禁物。
頑張らなくてもいいから、自分のペースでやろうというのがいい。
温泉とか酒会とか、趣味とかの気分転換を勧めるのもだめ。
早期発見が一番で、ちょっと沈みかけているとか、調子悪いのでは
と思ったら、早急に専門の医者に相談すること。
http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/5/29/100792/
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