2009年7月31日金曜日

緑化をしのぐヒートアイランド対策

(日経 2009-07-24)

都市のヒートアイランド対策に威力を発揮しそうな、
新タイプの「日よけ」が注目。
京都大学大学院の酒井敏教授が考案した「フラクタル日よけ」。

葉っぱが茂る樹木を模した構造で、木陰のような涼しさを感じられる。
一見ローテクだが、その設計にはヒートアイランド研究の常識を
ひっくり返すような発想が入っている。

日本科学未来館の玄関前、「シェルピンスキーの森」と名付けた
日よけが設置。
8月末までの予定で、気温などのデータをとって、
冷却効果を確かめる実験。

酒井教授らが企画・設計、製作は積水化学工業の関連会社、
積水インテグレーテッドリサーチが担当。

屋根部分は樹脂製で、三角形のとんがり帽子を集めたような形。
構造には、「フラクタル」の一種である「シェルピンスキー四面体」を採用。
フラクタルは、数学者のマンデルブローが導入した幾何学の概念。
全体と部分の形が相似形をなし、海岸線や樹木の枝分かれの構造など、
自然界に広く存在する。

シェルピンスキー四面体は、1つの四面体から同じ形で、
一回り小さい四面体を次々にくりぬいていって作った構造。
酒井教授によると、この構造は自然の樹木の葉の分布の仕方に近い。
日差しは防ぐ一方、風通しが良い。

なぜ、葉に似せた構造を作る必要があるのか?
酒井教授は、「葉の一つひとつが十分に小さいから」
太陽に照らされると、地上の大きな物体は熱くなりやすく、
小さな物体は熱くなりにくい。

炎天下で、自動車の車体は高温になる。
同じ場所に置いたミニカーは、金属製でもそれほど熱くならない。
小さい物体は、大気に熱を逃がしやすい。
同様に、植物の葉のように小さな物体は熱くなりにくい。

樹木の多い郊外では、太陽の光は小さい葉に当たる。
都会では、道路や建物が太陽の光を吸収する。
これらは、数メートル以上の大きな面でできている。
これが、都市と郊外の表面温度の違いに大きく関係。

都市部の気温が、郊外よりも高くなる現象は、
ヒートアイランド現象と呼ばれる。
意外なことに、昼間の気温は都市部も郊外もそれほど変わらない。
それでも都会で熱く感じるのは、大きな面積を持つ道路や建物の
表面温度が高く、そこからの赤外線を受けるため。
都市を冷やすためには、小さな物体が配置された日よけで
街を覆えばいい。

樹木は、小さな葉をあるパターンで分散配置。
酒井教授が複数の種類の樹木で、そのパターンを分析したところ、
フラクタル分布といえるもの。
フラクタルの一種であるシェルピンスキー四面体の形で、
樹木を模倣するアイデアが生まれた。

現在、ヒートアイランド対策として屋上緑化などが推奨。
樹木の蒸散作用による気化熱で、温度を下げることが期待。
メンテナンスに手間がかかり、維持するのに大量の水を必要。

フラクタル日よけは、樹木に近い遮熱効果を持つうえ、
メンテナンスも容易で、なにより水を必要としない。
「屋上緑化の代わりや、壁面への設置で効果が期待できる」(酒井教授)。
緑化にこだわらない新しいヒートアイランド対策として、
性能の検証などが期待。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec090722.html

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