2009年7月31日金曜日

乙女心を射止めた腕時計のヒミツ

(日経 2009-07-25)

低迷が続く国内腕時計市場。
世界的な景気後退が追い打ちをかけるが、そんな逆風下、
20~30歳代の“女子”向け腕時計で、ヒット作が相次いでいる。
人気の秘密は、手ごろな価格とセンスのいいデザイン。

東京・渋谷のファッションビル「シブヤ109」を発信地とする
「マルキュー系」などのカジュアル系ファッションブランドと同じく、
ちょっぴりすました「等身大」の演出が乙女心をくすぐる。

セイコーウオッチが、5月に発売した女性向け腕時計「ワイアード エフ」。
女性誌の表紙をひんぱんに飾る人気モデル、梨花さん(36)が
プロデュースした新機種(1万5750~2万6250円)は、
発売前から予約が殺到、発売とほぼ同時に売り切れ。
発売の際、いつもの新機種と同程度の本数しか用意しなかった。
営業担当者いわく、「すごい爆発力。販売予測が甘過ぎた」

「梨花ちゃんのデザインは、ドレッシーかつ、かわいくて
とっても使いやすそう!」、「梨花さんの時計かわいい!!
欲しいです(*^o^*)」――。
「ワイアード エフ」の携帯サイトには、梨花モデルを試した
20~30歳代女性たちの感想が並ぶ。

デザインは、至って質素。
日本人の肌色に合うといわれる黒や薄茶をベースに、
縦に長い楕円形のケースやサテン調のベルトなど、落ち着いた雰囲気。

実は当初のデザイン案は、文字盤も大ぶりで、
赤やピンクで彩った派手なものだった。
しかし、梨花さんの「(若い女性が求めているものは)
こういう派手なものじゃなくて、全く違うんですよね」
との一言で大きく方針転換。
梨花さんが描いたイメージ画などを基に、打ち合わせを重ね、
シンプルなデザインに落ち着いた。

担当した商品企画2部の河村直美さん(32)は、ヒットの背景を、
「梨花さんの考え方や服装、アクセサリーが若い女性の支持を集めた」

梨花さんのブログの閲覧件数は、1日約80万件に上る。
飾り気なく語られる、ちょっとおしゃれな日々の生活の様子に、
人気が集まる。
ブログにも腕時計にも、共通しているのは「常に自然体で語る、
等身大な梨花さんへの共感」(河村さん)。

梨花モデルを、「かわいい」と評した26歳の女性会社員に聞いた。
時計自体のデザインが優れていたのか、それとも梨花さんのデザイン
だからかわいく見えたのか?
答えは後者。
「梨花モデルと知らなければ、『かわいい』とは思わなかった。
梨花の時計だったからこそ、『かわいい』と共感できた」

オリエント時計が昨年末に発売した、「iO(イオ) シューティングスター」
シリーズ(1万3650~2万4150円)。
10歳代後半から20歳代前半の女性をターゲットに、
流れ星をモチーフにポップなデザインを採用。
旧シリーズの5割増しの初回生産量を準備したにもかかわらず、
予想を上回る売れ行きで欠品となったモデルも。

企画コンセプトは、「私の好きなもの」。
商品企画には、20歳代から30歳代前半の同社の女性社員7人。
「この時計を着ける子ってこんな性格だよね」、
「きっとこんな服を着て、こういうお店に買い物に行くるはず」。
腕時計のターゲット像を、具体的なイメージに掘り下げていく。

その上で「こんな形はどう?」、「流れ星ってかわいいよね」。
自分が理想とするイメージを重ね合わせ、内容をその場で
イラストにしてデザインを決めた。
「おしゃべり」の中で固めていったコンセプトが、
ほぼ同世代のハートを射止めた。

彼女たちの購買意欲を刺激したのが、腕時計としては
手の届きやすい1万~2万円の価格設定。
高級化が進んでいた腕時計のイメージからすれば、
ちょっとしたお得感がうれしい。
腕時計にステータスを求める男性とは違う。

これまでも、同じような価格帯の若い女性向けの腕時計が
なかったわけではない。
まるで抑えた価格を補うかのように、あえて派手な色を使ったり、
ラメを施したりと、意匠と価格のバランスに欠けるものが少なくなかった。
働く20~30歳代の元気はつらつ「女子」にはチープに映ったのか、
支持を集めるには至らなかった。

リクルートの20~30歳代女性向け無料情報誌「L25」の
山本朋恵編集長は、最近の若い女性の消費傾向を
「アラカルト消費」と表現。

気に入った品々をブランドなどは気にせず、一つひとつ単品で購入し、
自分の思いのままにコーディネートする。
購入を決める際のメルクマールとなるのが、
「流行を追いつつも、自らの個性を表現できる」(山本氏)こと。

欧米ブランドの超高級品か、安価な実用品か――。
梨花モデルや「私たちの好きなもの」とのコンセプト商品は、
その間の溝を埋め、「等身大の自分らしさをテーマにした
『アラカルト消費』にあった価値観を提供した」(同)。

「いかにモノに、個性や物語を持たせるか」から、
「顧客の個性をいかに最大限にいかせるか」へ。
商品企画の基点が大きく変わってきたようだ。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/syohi/syo090724.html

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