2009年7月30日木曜日

監督たちに学ぶマネジメント(2) 事実に基づきビジョン共有

(日経 7月25日)

マネジメントでは、リーダーが明確なビジョンを、
メンバーに提示できるかが重要な意味を持つ。
チームのあるべき姿を選手たちに明示し、「名門復活」を果たしたのが、
早稲田大学ラグビー部の清宮克幸前監督。

最近でこそ、大学ラグビー界をリードしている早大ラグビー部だが、
1990年代は低迷を続けていた。
状況を打破するべく、清宮氏が監督に就任したのが2001年春。
彼が就任して、真っ先に行ったことが明確なビジョンの提示。

「早稲田ラグビー」といえば、早大や日本代表の監督を歴任した
故・大西鉄之祐氏が提唱した「展開・接近・連続」をコンセプト。
体の大きい相手との密集戦での消耗を避けるため、
素早くボールを展開、相手の体形が崩れたところで接近、
全員でフォロー(連続)する。
この一連のプレーの流れで、トライを狙うという考え方。

清宮氏は、そうした伝統を無批判に受け入れる気質にメスを入れた。
まず、徹底的にファクト(事実)を分析。
ビデオで過去の試合を何度も分析し、攻めのパターンや局面ごとの
ミスの内容を明らかにした。
パスのタイミングや相手にタックルに入る角度など、
勝利の要素を明らかにするため、ミスや攻撃の精度を数値化。

勝つためには何をすべきか、という視点から、
勝利への方程式「ビクトリーチェーン」をまとめた。
この方程式を、「アルティメットクラッシュ(徹底的にたたきのめす)」
という明確なビジョンに落とし込み、
すべての部員に変革意識を芽生えさせた。
その後の早大ラグビー部の復活ぶりは言うまでもない。

ファクト分析を背景にした大胆な戦略転換と、それに基づく明確な
ビジョンの提示によって、選手たちを奮い立たせた清宮氏の手法は、
変革期を迎えている企業にとって大いに参考になる。
特に、ビジョンの提示の重要性は大きい。

米IBMの最高経営責任者(CEO)として、同社を危機の渕から救った
ルイス・ガースナー氏も、ビジョンの提示を重視した経営者の1人。
ガースナー氏は、「顧客志向への転換」を掲げ、大幅なコスト削減に
取り組むと同時に、ソフトやサービス事業を強化。
IBMが今あるのは、ビジョンのおかげ。

メンバーに明確なビジョンを提示するとともに、
行動規範の確立とコミットメントの醸成も、
チーム作りの初期段階で行わなければならない。
いくら良い戦略を実行しようとしても、行動規範やコミットメントを抜きに
安定した実績は残せない。

行動規範とは、心構えや基本動作などを包括的に含む概念。
コミットメントとは、「目標達成に向けた責任意識」

基本動作は、2つにわけられる。
1つは、「あいさつを必ずする」といった人間教育的な部分。
もう1つは、「キャッチボールは必ず相手の胸に寸分違わず投げる」、
「ボール球にはむやみに手を出さない」などの基本技術的な部分。

行動規範とコミットメントは、組織に規律と緊張感をもたらし、
戦うチームの土台となる。
野球でよく言われる「球際の強さ」という表現は、
このような地力が象徴的に表れている部分。

プロ野球、楽天イーグルス監督の野村克也氏は、低迷したチームを
立て直す「再生屋」として大きな実績。
実は、野村氏が選手の指導で最も重視しているのが、行動規範の確立。

野村氏は、ミーティングで選手たちに人間論やプロフェッショナルとしての
心構え、野球の基本理論を説いていく。
話したことを、ノートに取るように選手たちに指導。

ここで見逃してはならないのは、なぜこういったことを
話さなければならないのか、といった背景や理由も一緒に説いている点。
これによって、価値観の押しつけではなく、聞いている選手たちも
自分で考え、判断できるようになる。

野村氏の地道な活動が、自由奔放な気風を善しとした
阪神タイガースの風土改革に貢献したことは明らか。
野村氏が監督時のタイガースは、低迷状態を脱することはできなかった。
後を継いだ星野仙一氏が、鉄拳制裁も辞さないマネジメントスタイルで、
選手のコミットメントを引き出し、チームをリーグ優勝に導いた。
野村時代にまいた改革の種が、星野時代に花開いた。

優れた業績をあげている企業をみると、
組織全体の規律を保ちながら、現場を担う従業員が自律的に改善策を
提案・実行するという組織風土がみられる。

(アリックスパートナーズ ディレクター 古谷公)

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz090723.html

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