2009年7月30日木曜日

監督たちに学ぶマネジメント(1) WBC連覇に5つの要素

(日経 7月19日)

野球世界一を決めるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、
日本代表が連覇を果たし、日本中をわかせた。
金メダルの期待を背負って臨んだ北京五輪では、
日本代表は目を背けたくなるような惨敗を喫した。
対照的な結果の背景には、一体何があったのだろうか?

マネジメントのプロとして、企業の再生や変革を支援してきた
筆者の目には、WBCでの日本代表(サムライジャパン)は
理にかなった運営がなされているように映った。

特筆すべき点は、
(1)明確なビジョンの提示、
(2)行動規範の確立とコミットメント(目標達成に向けた責任意識)の醸成、
(3)戦略実行サイクルの運営、
(4)モチベーションアップ(士気向上)、
(5)実力主義の導入と柔軟な人材登用——の5つ。

これらは、集団で1つの目的を達成するには欠かせない要素。
チームスポーツだけでなく、企業経営にもあてはまる。

まず、明確なビジョンの提示。
原辰徳監督が就任する際、重視したのがチームのネーミング。
それまでの日本代表は、「長嶋ジャパン」、「王ジャパン」など
監督の個人名を冠していた。
原監督は、日本らしさを表現するのにこだわり、「サムライジャパン」とした。

これによって、「胸と胸を付き合わせて正々堂々と勝負する」という
日本チームのあり方が具現化し、プライドの高い一流選手を
束ねられるようになった。
監督個人の魅力やリーダーシップではなく、
目指す姿が求心力となる「ビジョン経営」になった。

次に、行動規範の確立とコミットメントの醸成。
原監督が強調していた、「日本力(にっぽんぢから)イコール侍らしさ」とは、
覚悟と潔さ、気力、粘りを意味する。
これらは日本選手のあり方、つまり行動規範となった。
特に、劇的な勝利を収めた決勝の韓国戦では、
「日本力を発揮して勝つことができた」と原監督は強調。

優勝を目指すことを宿命として選ばれた選手たちのコミットメントは
十分に高く、まったく問題はなかった。
苦しいとき、サムライジャパンらしさを保つため、
行動規範は大きな支えになったと思われる。

WBCでサムライジャパンが連覇を達成できた要素の1つが、
戦略実行サイクルの運営。

「プラン・ドゥー・チェック・アクション(計画・実行・検証・修正、PDCA)」
のマネジメントサイクルは、「言うはやすく行うは難し」の典型。
サムライジャパンを率いた原監督は、見事なまでにPDCAを徹底。

サムライジャパンの基本戦略は、持ち前の投手力を生かして
失点を最小限に抑え、数少ない得点チャンスをものにする「守りの野球」。
試合を重ねるごとに、データに基づきながらPDCAを回し、
基本戦略に磨きをかけていった。

この成果は、決勝戦での勝利の立役者である岩隈久志投手の
投球内容に表れている。
韓国打線が低めに弱い点を突き、投球数の76%が真ん中より低め。
こうした点は、精神論を重視しすぎて失敗した北京五輪からの
最も大きな変化といえる。

次に挙げられる要素が、モチベーションアップ。
原監督は、「技術と気持ちの部分で心配することはまったくない」と述べ、
選手たちを大人の集団として扱う「権限委譲型」のマネジメントを採った。
その象徴が、松坂大輔投手を投手陣のリーダーに指名したこと。

松坂投手は、練習中に話しかけたり、食事に誘ったりするなど、
若手との対話に腐心した。
緊張感の高い国際大会で、彼らが重圧に負けずに全力を尽くし、
伸び伸びとしたプレーができるようにするため、
チームとしての一体感を醸成するのに貢献。

最後の要素が、実力主義の導入と柔軟な人材登用。
チーム編成では、選手の選考への関心が高まったが、
マネジメント的な視点から、コーチ陣の組閣にも着目したい。
特に、作戦面で能力の高い人材をコーチにしたことが目を引く。

原監督は、チームの精神的支柱となり、モチベーションアップに
徹することができた。
作戦面を担当するのは、「コーチ+中心選手」という最適な役割分担。
選手起用でも、本業は先発であるダルビッシュ有投手を抑えで使うなど、
固定観念にとらわれることがなかった。

(アリックスパートナーズ ディレクター 古谷公)

1986年早大理工卒。ブリヂストンと外資系コンサルティング会社を経て、
2008年に企業再生専門のコンサルティング会社である
アリックスパートナーズに入社、ディレクターに。
自動車メーカーや消費財メーカーの営業・マーケティング力強化で実績。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz090717_2.html

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