2009年8月30日日曜日

挑戦のとき/14 山口大工学部准教授・星田尚司さん

(毎日 8月11日)

◆山口大工学部准教授・星田尚司さん

「比べてください。肉眼で見ても違うでしょう」
差し出された二つのシャーレは、45度で培養した2種の酵母。
片方だけ増えている。
これが星田さんの研究対象、
「クルイベロマイセス・マーキシアヌス(KM)」という耐熱性酵母。

酵母は、「発酵」の立役者。
酵母にとっては、生命活動のエネルギーを得るためだが、
人は古来、発酵を利用して酒や食品、薬などを作ってきた。
代替燃料として注目されるバイオ燃料も、
糖を発酵させてできるエタノールを精製して作る。
発酵時の熱が、酵母の活性を落とすため、
生産現場では適温の30度前後まで冷やす。
星田さんは今年度、KMを高温下でも活動する
強い酵母に育てるプロジェクトを始めた。

KMのうち、タイの精糖工場内で最近見つかった
「DMKU3-1042」という株は、通常の酵母の生存上限(40度)より
はるかに高い49度でも増殖。

45度になると、活性が落ちることが難点。
45度でも活発に働く酵母に育てるため、星田さんが考えた戦略は
「酵母本来の能力に任せる」こと。

方法は単純。
エタノールを混ぜた培地にこの株を入れ、45度以上で育てる。
過酷な環境にも適応して元気に生きる株が見つかれば、
遺伝子の変異を探す。
これを手がかりに、遺伝子工学で新株を作り出していく。
「自然の力に頼ってみようと思います。生き物ってすごいんです」

高校1年の理科で、光合成の仕組みを学び、
「光合成は究極のエネルギー生産法だ」と感じた。
太陽光からエネルギーを生み出す光合成は、
太陽光発電とは比較にならないほど効率がいい。
「人工光合成」の研究に大学院まで取り組んだが、
「人間にはまねでけへん、と思った」
まねよりも、生き物そのものの力を借りた方が現実的と考え直し、
今のテーマにたどり着いた。

新株が見つかれば、発酵タンクを冷やす工程は不要に。
年3万キロリットルのバイオ燃料を生産するプラントを
想定した試算では、発酵温度を5度上げることで、
約5000万円の設備投資と年間500万円の冷却コストが削減。
地球温暖化防止にも貢献する。

研究室では、微生物を使って環境をよくしたい、
病気を治したい、と考える学生・院生約30人が、
こつこつと取り組む。
「環境のために僕ができることは、狭い範囲の小さなこと。
一生懸命やった仕事が、環境を守ることにつながればうれしい」
と笑顔を見せた。
==============
◇ほしだ・ひさし

1970年、大阪生まれ。京都大大学院博士課程修了。
99年、山口大助手、07年から現職。専門は遺伝子工学。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090811ddm016040109000c.html

0 件のコメント: