2009年9月4日金曜日

日の丸省エネ技術「世界一」の呪縛(住環境計画研究所所長 中上英俊)

(日経 2009-08-24)

ドイツで開かれた世界陸上選手権。
陸上100メートル走で、ジャマイカのボルト選手が
驚異的な世界新記録で優勝。
予選での流したような走りで、日本のエースの記録を超えていた。
どう見てもあの体形、体力とわが大和男子では、
並大抵のことでは勝てそうにない。

世界一とは何だろう、と改めて考えてみた。
わが国の省エネ技術は世界一、最近までは太陽電池の普及も
世界一等々の記事や論評を見るたびに、誇らしく思っていたが、
ここ数年このような表現にかげりが。
太陽電池の普及はドイツに追い越され、
太陽熱の温水器に至っては中国の足元にも及ばない。

ドイツに抜かれるのは、何となくシャクのような気もするが、
中国となると、ま、仕方ないかと思ってしまう。
わが国の10倍の人口がいる国なのだ。
物量比較では、何かにつけて中国やインドといった人口大国が
どんどん上位に連なってくる。
深く考えなくとも、至極当たり前のこと。
CO2排出量も、そろそろ中国が世界一の排出国に転じる。

省エネ技術は、わが国が世界のトップレベルにあることは間違いない。
世界を引っ張っていく役割はありそう。
何でもかんでも世界をリードすることが、わが国の役割なのだろうか?
冷静に、分相応に考えて行動することに、
しっかりと軸足を据えることを考えてはどうだろうか?

「アフター京都議定書」に向けての次なる目標設定での議論もそう。
2050年に向けての環境相の構想が、8月14日付で公表。
中身について、詰めが甘いところがあるが、
40年先なら、80%の温室効果ガス削減は不可能ではない。
そのシナリオが、現在の技術に拘泥しすぎている。

2020年となると、話は違ってくる。時間がない。
分不相応な数値目標を掲げると、自らの存在を危うくさせかねない。
数値目標設定に際し、「わが国が温暖化防止に向けて、
世界のリーダーシップをとるには・・・」といった表現。
何もリーダーシップをとることを目標にしなくても。

日本の1家庭当たりのエネルギー消費量は、
欧米の2分の1~3分の1。
数字横並び的な目標値の設定に、私は疑問。
横並びでないと、世界のリーダーシップがとれないなら、
とれないでよいではないか。
とれないと困るのならば、その理由が聞いてみたい。

決してわが国は、エネルギー浪費的な国ではない。
省エネルギー、脱二酸化炭素へ向けて速度を増していけばいい。
身の丈に合わせて行動することを恥じることはない。

わが国で生まれた柔道は、「柔よく剛を制す」とされ、
体は小さいが大男を投げ飛ばすことが尊ばれた。
これとて同じ日本人という体格の中での話。
今やオリンピック種目にまでなったわが国の国技は、
身の丈に合わせて体重別に技を競うスポ−ツとなった。
世界陸上選手権を見ていて、そんなことが妙に気になった。

◆なかがみ・ひでとし

1973年(昭48年)東大大学院工学系研究科修了、
住環境計画研究所を創設し所長。
慶大システムデザイン・マネジメント研究科教授、
経済産業省の総合資源エネルギー調査会委員なども務める。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090821.html

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