(日経 2009-08-28)
どこにでもある水を、特殊な方法で電気分解して
水素と酸素からなる「酸水素ガス」を作り、
燃料などに使う試みが進んでいる。
ガスバーナー燃料への利用に続き、小型エンジンを動かすことに成功。
この燃料は、組成や燃焼効率などに未解明な点があり、
いっそう関心をかき立てている。
東京海洋大学海洋工学部。
伊藤雅則教授らの手で、酸水素ガスを使った初めての
エンジン作動試験が始まった。
試験には、1馬力のLPガスエンジンを使用。
タンクにためた酸水素ガスをエンジンに送り、
約1時間の連続運転に成功。
このガスには、水素と酸素がほぼ2対1の割合で含まれる。
燃焼後は水に戻り、有害な排ガスは発生しない。
面白いのは、エンジンに空気の取り込み口が不要。
ガス中の酸素が燃焼剤になるため、外の空気無しでも燃える。
伊藤教授は「潜水艇の動力源としても使えそう」
小型エンジンに続いて、乗用車エンジンを酸水素ガスで動かし、
燃焼データを集める計画。
酸水素ガスは、プラントメーカーの
日本テクノ(大政龍晋社長)が開発。
発明者である同社長の名前にちなんで、「OHMASA—GAS」と呼ぶ。
水の電気分解で得られる燃料といえば、「ブラウンガス」と呼ばれる
水素と酸素の混合ガスが古くから知られる。
超高温で燃焼する特徴があるが、爆発しやすいというネックがあり、
普及はいまひとつ。
日本テクノの酸水素ガスは、圧縮しても爆発しにくい。
厳重な漏れ対策が必要な水素ガスとも異なり、
通常のステンレス容器で200気圧を超える高圧で、
長期間貯蔵できることも確認。
日本テクノは、電気メッキ用プラントを扱っている。
大政社長は、低周波の振動・攪拌をしながらメッキをすると、
通常は電気分解で発生する大きな気泡が生じず、
水素爆発も起きないことに気が付いた。
これをヒントに、同じ方法で水を電気分解することを試みた。
こうして得られた酸水素ガスは、水素と酸素が
単純に混合しているのではなく、両者が特殊な結合をして
水分子とも異なる特殊な構造を作っている。
水素と比べ、貯蔵容器からの漏れが少ないことも説明。
高圧で貯蔵できれば、プロパンガスのようにボンベで流通させたり、
給油所のような場所でガスを供給したりするといった利用が容易。
日本テクノは、酸水素ガスの用途開発と並行して、
ガスの正体を調べる研究を進めている。
今春、特殊な装置で酸水素ガスを液化してみた。
酸素はセ氏マイナス183度、水素はマイナス253度で液化、
この気体は酸素の液化温度より3~7度高い温度で
液化することが分かった。
東京工業大学の谷岡明彦教授は、「非常に興味深い現象」
日本テクノは引き続き、ガスの組成などの解析を進めている。
大分県佐伯市にある共栄船渠(山本健二社長)では、
日本テクノの酸水素ガスをガスバーナー燃料に使い、
鉄板を切断する作業に使っている。
「通常のバーナーと比べて切断面がきれい」(山本社長)。
酸水素ガスを、燃料電池で水素燃料の代わりに使えば、
発電効率が向上することも確認。
ガスの燃焼によって発生する発熱量は、もともとの電気分解に使った
エネルギーの2倍程度に達する。
投入した電力以上の熱量が得られるヒートポンプ給湯機のような
効果が期待できる可能性。
未解明の部分が多い酸水素ガスだが、
それだけに、大きな可能性を秘める。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec090827.html
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