(毎日 4月14日)
失明患者の失われた光を、神経への電気刺激で取り戻す。
約15年前の学会で「人工視覚」の研究計画を発表。
だが、「そんなことは不可能」と賛同者はほとんどいなかった。
「若くて大胆だったせいかもしれないが、
絶対にできるとの思いは揺るがなかった」と、八木さんは研究を続けた。
世界で20以上の研究チームが、患者に「光」を見せる研究に取り組む。
仕組みはこうだ。
障害を受けた網膜などを電気で刺激する。
神経が「光を受けた」と認識し、脳が光を感じる。
この光の点を増やせば、ものの形を電光掲示板のように
脳に「見せる」ことができる。
八木さんは01年、人工視覚の国家プロジェクトに参加。
民間企業に移り、試作装置まで作り上げた。
高校時代は文学が好きだった。
「大学も文学部へ」と考えたが、英語が苦手だった。
教諭から「理系の点数がいいから」と勧められ、
名古屋大工学部機械工学科に入学。
大学1年のとき、認知心理学の授業で自分がやりたいことに出合う。
濃さの違う帯が並ぶ絵を眺めると、帯の境界が明るい方はより明るく、
暗い方がより暗く強調されて見えた。
「マッハ効果」と呼ばれる現象。
神経レベルで解明され、コンピューターの画像処理に使われている、と知った。
「面白い。機械をやっている場合じゃない」
「目と脳を知りたい」と、医学部の授業に潜り込んだり、独学で知識を蓄えた。
大学4年から、人間の目の動きを再現するロボットの目作りに取り組み、
やがて「ロボットの目を人に使えば、視力を失った人を救える」と、
人工視覚の研究に足を踏み入れた。
実は、世界の人工視覚研究は足踏み状態にある。
目に埋め込む装置が小さく、神経に刺激を伝える電極の数を増やせない。
八木さんは、集積回路に神経細胞を付着させ、
その神経細胞と電極をつなぐ「バイオハイブリッド型」で打開を目指す。
電極にはたんぱく質を使う計画。
「従来の人工臓器は完全な人工物だった。
今後は、工学と再生医療の融合が実用化を推進するのではないか」
8人の学生が所属する研究室を切り盛りする「指導者」でも。
卒業した学生から「この研究室だから頑張れた」と言われ、手応えを感じた。
「いいアイデアは、多くの無駄や自由な発想から生まれる。
若い学生と話していると、ここから次代のアイデアが生まれるに違いない」
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◇やぎ・とおる
名古屋市出身。工学博士。96年名古屋大大学院博士課程修了。
理化学研究所などを経て、01年、ニデック人工視覚研究所長。
04年に東京大先端科学技術研究センター客員研究員、05年から現職。
http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090414ddm016040083000c.html
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