2009年4月24日金曜日

挑戦のとき/8 東京工業大准教授・八木透さん

(毎日 4月14日)

失明患者の失われた光を、神経への電気刺激で取り戻す。
約15年前の学会で「人工視覚」の研究計画を発表。

だが、「そんなことは不可能」と賛同者はほとんどいなかった。
「若くて大胆だったせいかもしれないが、
絶対にできるとの思いは揺るがなかった」と、八木さんは研究を続けた。

世界で20以上の研究チームが、患者に「光」を見せる研究に取り組む。
仕組みはこうだ。

障害を受けた網膜などを電気で刺激する。
神経が「光を受けた」と認識し、脳が光を感じる。
この光の点を増やせば、ものの形を電光掲示板のように
脳に「見せる」ことができる。

八木さんは01年、人工視覚の国家プロジェクトに参加。
民間企業に移り、試作装置まで作り上げた。

高校時代は文学が好きだった。
「大学も文学部へ」と考えたが、英語が苦手だった。
教諭から「理系の点数がいいから」と勧められ、
名古屋大工学部機械工学科に入学。

大学1年のとき、認知心理学の授業で自分がやりたいことに出合う。
濃さの違う帯が並ぶ絵を眺めると、帯の境界が明るい方はより明るく、
暗い方がより暗く強調されて見えた。

「マッハ効果」と呼ばれる現象。
神経レベルで解明され、コンピューターの画像処理に使われている、と知った。
「面白い。機械をやっている場合じゃない」

「目と脳を知りたい」と、医学部の授業に潜り込んだり、独学で知識を蓄えた。
大学4年から、人間の目の動きを再現するロボットの目作りに取り組み、
やがて「ロボットの目を人に使えば、視力を失った人を救える」と、
人工視覚の研究に足を踏み入れた。

実は、世界の人工視覚研究は足踏み状態にある。
目に埋め込む装置が小さく、神経に刺激を伝える電極の数を増やせない。
八木さんは、集積回路に神経細胞を付着させ、
その神経細胞と電極をつなぐ「バイオハイブリッド型」で打開を目指す。
電極にはたんぱく質を使う計画。

「従来の人工臓器は完全な人工物だった。
今後は、工学と再生医療の融合が実用化を推進するのではないか」

8人の学生が所属する研究室を切り盛りする「指導者」でも。
卒業した学生から「この研究室だから頑張れた」と言われ、手応えを感じた。
いいアイデアは、多くの無駄や自由な発想から生まれる。
若い学生と話していると、ここから次代のアイデアが生まれるに違いない」
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◇やぎ・とおる

名古屋市出身。工学博士。96年名古屋大大学院博士課程修了。
理化学研究所などを経て、01年、ニデック人工視覚研究所長。
04年に東京大先端科学技術研究センター客員研究員、05年から現職。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090414ddm016040083000c.html

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