2009年7月21日火曜日

市民力を鍛える(3)「お金」学び 人生設計

(読売 7月9日)

お金の入りと出を教えることは、大人になる前に
生き方を具体的に考えるきっかけに。

東京都立淵江高校の剣道場。
車座になった3年生約80人の前に教師が立ち、
「あなたの今回の職業はこれです」と言いながら、生徒にボードを示した。

ボードには、「職業・コンビニ店員、稼ぎ方・時給制、働き方・フリーター」
別のボードに、「あなたの月収は15万円」と書いてある。
それを見ながら生徒たちは、月に何時間働くのか、
自分の時間はどれだけ取れるのか、などを専用の紙に書き込んだ。

この授業は、金融教育プログラム「マネーコネクション」のひとつ。
若者の就業支援を行っているNPO法人「『育て上げ』ネット」と、
金融機関の新生フィナンシャルが共同開発。
社会人が必要な生活費がいくらで、
そのためにどのような働き方があるのか知ってもらうのが目的。

「育て上げ」ネット理事長の工藤啓さんによると、
高校生の多くは、自宅の家賃や食費、光熱費など、
生活費がいくらかかっているかを知らない。
例外は通信費で、「携帯電話の費用を自分で払っているためか、
全国平均の金額を書き込んでいる」

この日の授業では、「正社員で月収30万円」、
「契約社員で月収15万円」など、6通りの働き方をボードに提示。
結婚して子どもができたり、マイホームを持ったりしたら
生活できるかなどを、生徒たちに考えてもらった。

「正社員はお金をもらえるけど、自分の時間がないことが分かった」と、
自分の紙を見直していたのは大友美穂さん(17)。
小嶋冬子さん(17)は、「派遣社員や契約社員では、
お金が足りないと感じた。結婚相手は正社員を選ばないと」

金融教育は近年、関心の高まっている分野。
日本銀行が事務局の金融広報中央委員会は、
学校で金融教育を行うための教材を作っているほか、
全国約150か所の学校を研究校に指定して普及に努めている。
金融商品や株式投資について、中高生に教える授業もある。

工藤さんが取り組みを始めたきっかけは、
支援をしてきたフリーターの「お金の話をした方がいい」という一言。
学校を出るまでは親の保護があり、お金に苦労することは少ないが、
社会に出た途端、お金に苦労して後悔する人が多い。
そんな実態を、NPOの活動を通じて感じた。

「フリーターが、一概にだめとは言わない。
正社員になってしまえば、多くの時間を会社に拘束され、
望まぬ転勤などもあることを知ってもらいたい」

金融教育は、社会に出た後の人生設計を考えるきっかけ作り。
お金もうけのための勉強ではない。
授業の依頼は進学校からが多いが、本当に必要なのは
就職する生徒の多い学校。
「だから今は、金融教育がなぜ必要なのか広く知ってもらいたい」と
工藤さんは願っている。

◆金融教育

金融や経済の仕組みを学ぶ教育。
お金の使い方を教えることで、貯蓄や投資の意義についての理解を
促すほか、金融犯罪被害の防止や多重債務に陥らないための
心構えを説くなど、消費者教育の側面も持つ。
大学や金融機関が、教科書や授業内容を考案する例が多い。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090709-OYT8T00245.htm

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