2009年7月21日火曜日

日本IBMの北城最高顧問 「IT産業の魅力向上を」

(日経 7月14日)

クラウドコンピューティングが、“旬”のキーワードとなっているIT業界。
足元ではどのような変化が起きているのか?
経済同友会の終身幹事も務める
日本IBMの北城恪太郎・最高顧問に見方を聞いた。

——足元のIT業界の景況は?

「事業規模の縮小で、情報システムの能力に余剰が生じ、
ハードウエアへの新規投資は減っている。
相対的に、製造業の顧客が苦しく、新規投資を控える姿勢が鮮明。
日本IBMが得意とするサービスの領域では、
長期間継続する運用受託などが多く、ある程度は需要も安定。
個別企業から、『厳しいからこそ、コスト構造改革に取り組む』
という声も多く、景気低迷の中でも需要はある

「サーバーなどハードの技術進歩は著しく、台数削減によって
運用コストを抑えることが可能。
日本IBMでは、自分が社長を務めた時代、沖縄県の拠点や海外に
営業支援などの間接業務をまとめて移管した。
集中処理による効率化の余地も大きい」

——クラウドコンピューティングの動きをどう見るか?

現段階ではイメージ先行の部分はあるが、
大きな流れになるのは間違いない。
信頼性への要求水準の高い企業が十分に活用できるほどには、
まだ進化していない。
ネット全体で、サービスを共有する仕組みなので、
災害やハッカーからどう身を守るかといった課題は多い」

セキュリティーなどの面で、実用に耐える実例を作ること。
実績を積めば、次の課題も明確になり、解決のための技術も進歩する。
IT業界は、新しい概念にすぐ飛びつき、すぐ放り出す癖がある(笑)。
そんな風にはクラウドを扱いたくない」

——IT業界にとっての課題は何か?

各社が知恵を絞り、あらゆる産業のインフラであるIT産業の魅力を
高める必要がある。
『仕事がきつい』といわれるため、若い人材が手薄になりつつある。
システム構築手法の高度化により、作業量の多寡で
仕事を請け負う発想を改めねばならない」

「『何がシステムに必要か』の要件定義を綿密に行い、
作業工程を管理する仕組みが重要。
質の高い仕事を手掛けられるなら、若者も働きがいを感じてくれる。
業界全体の課題である中小企業需要の開拓を考えても、
投資に敏感な顧客に対し、コストに見合うシステムを安定供給する上で、
高度で効率的な手法は欠かせない」

「日本の大学では、中国やインドの大学と違い、
高度な発想や手法を教えていない。
竹やりを振りかざして、体力で勝負するかのような流儀は、
日本が進むべき道ではないはずなのに、なかなか状況は変わらない」

——日本の教育現場のどこが問題なのか?

企業との連携が決定的に足りない。
米国などとは対照的だ。
中国やインドの優秀な人材は、米国留学で米国IT産業の開発手法を
身につけ、母国での教育にも生かしている。
システム構築の高度化には、高度な人材を育てるための変革が
教育現場に必要。
それが、日本の産業の競争力を高めることに。
基本的に研究第一である日本の大学では、教育に対する取り組みが
正当に評価されることがまず少ない」

語学も問題。
グローバルなビジネスでは、英語は必須。
英語を操れる人材がいなければ、世界の優秀な人材を
引き付けることもできず、競争力は鈍ってしまう。
中国IBMでは、外国に行ったこともないのに、
滑らかな英語を話す社員が多い。
IBMの社員だからというわけではなく、日本IBMでは苦労している(笑)。
やはり教育に欠陥があるのだろう」

——企業はどんな手を打てばよいのか?

「ビジネスの最前線は、勝ち抜くための変革を日々追求している。
独自の発想を基に挑戦し、変革を起こせる一方、
高い倫理観を持つ人材が求められている。
教育界は、旧態依然の点数至上主義。
そのような学校でいくら優秀でも、ビジネスのリーダーとして
活躍できるとは限らない。
経営者が教育の現場に足を運び、企業の変化を伝えることが重要。
自分も毎月のように実践している」

「日本IBMの業務の中核であるサービス部門を例に、
顧客企業の経営にどう貢献するかが問われる以上、
人材の質が仕事の質を左右。
優秀な人材を採用して、世界に通用する人材に育てることが
企業にとって必要だからこそ、そうした人材が生まれやすいように、
教育現場にも働きかけるべきだ」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/interview/int090713.html

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