(日経 2009-07-10)
米政府が、太陽光関連の技術開発を加速。
米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)など
エネルギー省傘下の研究機関が、次世代太陽電池から蓄電池、
次世代送電網(スマートグリッド)まで総合的に担う。
先行していた日本を追い抜き、振り切る勢い。
背景には、エネルギーの安定的な確保を安全保障の要に据える
明確な戦略がある。
オバマ米大統領が、エネルギー長官にノーベル物理学賞受賞者の
チュー博士を任命して以来、エネルギー省は
再生可能エネルギーや省エネのプロジェクトを相次ぎ拡充。
太陽光関連の技術開発と普及策は、その大きな柱。
7月14~17日、チュー長官はロック商務長官とともに訪中。
再生可能エネルギーやCO2回収・貯留技術(CCS)などで、
協力強化を確認する見通し。
中国市場の開拓も狙う。
訪中は、京都議定書後の枠組みを決めるポスト京都の国際交渉を
有利に進めるための地ならしの意味もありそう。
◆ソーラー・アメリカ・シティーズ計画の概要
・全米約25カ所で実施
(NY、フィラデルフィア、オーランド、オースティン、SFなど)
・1カ所あたり20万ドルの金融支援と25万ドル相当の技術支援
・専門家による特別チームが設置場所の特性を考慮してきめ細かく支援
△サンフランシスコの例
・温暖化ガスを、2020年までに1990年比20%削減
・2012年までに再生可能エネルギーによる発電を3万1000キロワット
・今後1年間、太陽光関連で5000人の雇用を創出
エネルギー省は、学者をトップに据えたため、
日本からは研究主体の役所のように見えるかもしれない。
実際には、国防総省や国務省と並んで、
国家安全保障の一端を担う重要な組織。
地下核実験などを含む「核エネルギー」を扱っているという
理由からだけではない。
中東の不安定化が、石油高騰に結びつき、
米経済に打撃を与えたことからも、
エネルギーが国の安全と繁栄の鍵を握るという考え。
再生エネルギーの利用促進も、電気自動車の開発も、
「エネルギー安全保障」の確保が大きな目的。
米国が太陽光に力を入れることが、国際社会における
力のバランスを、大きく変えうる効果を持つ。
エネルギー消費大国の米国が、太陽光の利用を急拡大し、
原油の輸入を減らせば、産油国の力が低下するのは明白。
中国など新興国に対して、技術供与という武器を持つことができる。
エネルギー関連技術は、ITバブル崩壊、金融危機で、
国際的な影響力が低下した米国が、再び巨大な力をつける
きかっけを与えてくれる可能性がある。
2010会計年度、米エネルギー省エネルギー効率向上・再生可能
エネルギー局(EERE)は、太陽エネルギー関連予算として、
前年度比1.45倍の3億2千万ドル(約305億円)を要求。
大部分はNREL向け。
NRELのクロポスキ主任グループマネジャーは、
「(太陽光を電気に変える変換効率の高い)次世代太陽電池の
開発などに力を入れる」
送電系統の安定的な運用へ向けた規格作りなどにも取り組む。
太陽光、蓄電池などと、スマートグリッドの実用化へ向けた
送電系統の技術規格の制定も並行して進める。
規格作りを急ぐ背景には、米国の産業界に有利になるように
率先して、国際標準を決めてしまいたいという意図。
エネルギー省は、市場構築の起爆剤とするため、
全米25の市で「ソーラー・アメリカ・シティーズ」計画も進め、
技術・資金面で太陽電池設置に手厚い支援。
日本は、太陽光関連技術の開発で世界をリード。
優れた研究者も多い。
それをエネルギー安全保障の観点から国家戦略に組み込み、
国際社会で国としての存在感を高めることに
生かせているとは言い切れない。
NRELに対応する日本の機関は、
恐らく産業技術総合研究所の太陽光発電研究センター。
04年度に発足、期限付きで10年度で終了。
「せっかく開発してきた技術が、十分に生かせないまま
失われてしまうのでは」と危惧する研究者も。
年間予算は、米エネルギー省EEREの太陽光関連予算の10分の1以下。
次世代太陽光発電など多くの研究テーマは、
様々な組織に引き継がれるのだろう。
しかし、本気で世界をリードしエネルギー技術を国益に
つなげることを考えるなら、「日本版NREL」とも言えるような
総合的な研究機関兼シンクタンクがあってもよい。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec090708.html
0 件のコメント:
コメントを投稿