(日経 2009-07-06)
日本政府が、2020年に温暖化ガスの排出を、
05年比15%減らす目標を掲げたのに対し、
企業別の排出ランキングで上位を独占する高炉大手が反発。
今の高炉法では、排出削減が限界に近づき、
切り札になる水素製鉄も、実用化は30~40年先になる見込み。
鉄スクラップを原料に使い、温暖化ガスの排出が少ない電炉が
急速に存在感を増す可能性。
07年度の企業別温暖化ガス排出は、新日本製鉄が1位、
JFEスチールが2位、高炉大手が上位を独占。
石炭を蒸し焼きにしたコークスで、鉄鉱石を還元するとき、
鉄鉱石に含まれる酸素とコークス中の炭素が結合。
大量のCO2発生は避けがたい。
日本の高炉の生産効率は世界最高水準で、
「温暖化ガスを、今以上に減らす余地はほとんど無い」(鉄鋼大手幹部)
日本鉄鋼連盟の宗岡正二会長(新日鉄社長)は、政府の目標について、
「国際競争にさらされる(鉄鋼のような)産業には大変厳しい」
石炭からコークスをつくるコークス炉の全面更新が、
一つの対策として考えられる。
新型コークス炉は、新日鉄が昨年、大分製鉄所で初めて導入。
石炭を蒸し焼きにして、コークスをつくる時間を、
従来の18時間から13時間に短縮。
消費エネルギーが少なく、これまでのコークス炉に比べ、
CO2排出を年40万トン減らせる。投資額は370億円。
新日鉄のコークス炉は国内に17あり、寿命が来ていない炉も含め、
すべて切り替えるには莫大な投資が必要。
中国の鉄鋼業界が、温暖化対策に同程度のコスト負担をしなければ、
「日本の鋼材は、価格競争で全く太刀打ちできなくなる」
高炉の温暖化ガス削減の切り札は、各社が経済産業省などと協力、
開発を進める水素製鉄。
高炉で還元材料として使うコークスを水素に代替すれば、
排出されるのはCO2ではなく水に。
水素を大量に安定調達するのは難しく、コストも高い。
どんなに頑張っても、20年までに水素製鉄の実用機をつくるのは難しい。
そこで注目を集めるのが、これまで高炉の陰に隠れがちだった電炉。
電炉は、鉄スクラップを溶かして不純物を取り除き、粗鋼を生産。
炭素の固まりであるコークスを使わない。
最大手の東京製鉄によると、鉄1トン生産するときに排出する
CO2は、高炉の4分の1ですむ。
現在、国内の粗鋼生産のうち、高炉は7割強で、電炉が3割弱。
米国は電炉比率が57%、欧州は43%で、
「日本は先進国の中では著しく低い」
ある高炉大手の幹部は、今3割弱の電炉比率が遠くないうちに
4割に上がるのでは、と危惧。
温暖化ガスの排出を6~8割減らす50年へ向け、
注目度はさらに高まる可能性がある。
課題は、品質との指摘も。
電炉メーカーは否定するが、高炉メーカーは
「電炉材は、原料のスクラップに含まれる不純物などの関係で、
高炉材に比べると、強度や加工性など品質が劣る」
これまで電炉材は、自動車向けほど品質が問われにくい
建材向けが主体。
最近は、東京製鉄が高炉製品に迫る品質の鋼材を開発、
高炉大手の牙城だった自動車用鋼板の分野にも進出。
電炉でつくった鋼板を使う自動車は、
表面の仕上げなどで、高炉材ほどの高級感を出しにくいかも。
環境対策のためならそれでよい、という消費者が増える可能性も。
モータリゼーションが始まって日が浅い中国などの発展途上国では、
スクラップの発生量が十分でなく、世界的に当面は
電炉原料の量に制約がある。
急激に電炉比率が増えると、スクラップ価格の高騰を招く恐れ。
10年後、廃車が急増し、スクラップの供給が増えてくるとの見方。
高炉大手も、指をくわえて見ているわけではない。
新日鉄などは、電炉メーカーへの出資を拡大するなど、布石を打つ。
高炉でなければ、生産できない高級鋼材の分野は
相当程度、残るだろう。
電炉メーカーが台頭してくれば、高炉が中心だった
鉄鋼業界の地図はすいぶん変わるかもしれない。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090702.html
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