(読売 7月23日)
ルールがなぜ作られるのかを教えることで、規範意識を育む。
「証人は被告の親友だから、かばいたくなるんじゃないかな」、
「被告も証人の話も疑わしいけど、それだけじゃ有罪にできないよ」
福井市の福井大学付属中学校で、3年生の授業として
開かれた模擬裁判。
森田史生教諭(41)が時間切れを告げても、
判決を検討する議論はやまなかった。
模擬裁判は、30歳代の男性が福井市内の電器店で
人気のゲームソフトを盗んだ疑いで逮捕、起訴されたという設定。
生徒たちは、「裁判官・裁判員」、「検察官」、「被告・弁護士」など
役割ごとに八つの班に分かれ、男性のアリバイや警察に
自供した点などを争点に裁判を進めた。
結審後、班ごとに結論を発表したが、「有罪」としたのは
「傍聴人」の二つの班だけで、他の班はいずれも無罪。
模擬裁判の指導役で、福井市内で開業する井上毅弁護士が、
「皆さんの顔に正解はどっち?と書いてあるけど、
この話に正解はありません。
自分たちが、人を裁くことについて考えるのが大切です」
被告役を演じた藤井大君(14)は、「みんなに囲まれて緊張したし、
被告の気持ちが少し分かった。
自分が裁判員になったら、そこまで考えて判決を出したい」
森田教諭や井上弁護士は、福井法教育研究会に参加。
模擬裁判で使ったシナリオも、研究会が作ったもの。
法教育の目的は、法律の知識を学ぶのではなく、
法的なものの考え方を身に着けることに主眼を置いている。
中心メンバーの橋本康弘・福井大准教授は、
背の小さい人が常に前に並ぶ背の順のルールの是非を考える授業や、
廊下を走らない、人の悪口を言わない、給食を残さないの
三つの決まりに優先順位をつける授業などを、身近な法教育として例示。
「生徒がルールの意味を理解し、納得した上でルールを
受け入れることが重要だ」
法的なものの考え方に慣れていない学校の先生が多く、
学校で法教育を行う難しさを感じている。
背の順のルールを取り上げてはと提案すると、
「議論することによって、生徒たちが整列しなくなると困る」と
難色を示す教師もいた。
今年5月に始まった裁判員制度をきっかけに、
検察官や裁判官が模擬裁判に参加するなど、
法の世界と一般との接点が増えた。
井上弁護士のように、学校現場に足を運ぶ人もいる。
授業の進め方についても、法曹関係者の助言を期待する声は強い。
授業時間の確保も課題。
森田教諭によると、同大付属中は模擬裁判も含め、
年に10時間を法教育に割くが、一般的に、社会科の中で
法教育に該当する部分は3、4時間しかない。
森田教諭は、「公立の中学校でも、社会科の時間に
法教育ができるようにしたい」と、内容を圧縮した授業モデルを検討。
◆裁判員制度
殺人や強盗傷害などの重大な刑事事件の裁判に、
抽選で選ばれた20歳以上の国民が参加する制度。
今年5月21日に始まった。
裁判員6人と職業裁判官3人の構成で、有罪か無罪かの事実認定と
有罪の場合の量刑を多数決で決める。
8月3日にも、最初の裁判員裁判が開かれる予定。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090723-OYT8T00258.htm
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