2009年7月23日木曜日

火力発電最前線:/上 石炭燃料ガス化、CO2削減に期待

(毎日 7月6日)

世界中で増える電力需要を賄うため、
石炭や天然ガスなど化石燃料依存は強まる。
「待ったなし」の地球温暖化問題にどう応えるのか?
エネルギーと環境のバランスを考える際、
人類が直面する最重要課題の一つ。
火力発電の技術開発の最前線を2回に分けて報告。

◆10年の遅ればん回

「炭鉱のまち」といわれた福島県いわき市。
各国が開発を競う、新技術の石炭ガス化複合発電(IGCC)の施設
出力は、25万人分の電力相当の25万キロワット。
6月、来年1月までの世界最長の耐久性試験を始めた。
石炭は、1時間に70トン燃やす。

粉末にして、屋内貯炭場から道路越しに空中配管で運ぶため、
周囲に石炭の気配はない。

石炭発電は、CO2排出が石油の1・3倍、天然ガスの1・6倍多い。
価格が安く、埋蔵量も多い。
国際エネルギー機関などによると、世界の石炭発電は
30年に05年の1・8倍に増え、総発電量の45%を占める。

従来の石炭発電(汽力発電)は、石炭をボイラーで燃やし、
蒸気を作って発電機のタービンを回す。

IGCCは、石炭を蒸し焼きにして水素などの可燃性ガスを発生、
これを燃やしガスタービンを回す。
蒸し焼きの熱で、蒸気を作ってタービンを回す。

2段階発電で、エネルギー損失を減らす。
実証機の発電効率は、汽力新鋭機並みの42%だが、
25年に50%に向上する見込み、CO2排出量は石油発電並みに改善。

実証機は、欧米の4基と異なる「空気吹き」が特色。
ガス化炉を1800度に加熱するため、欧米方式は酸素を吹き込むが、
酸素製造に大きな電力がいる。
空気吹きはその分がなく、発電効率が3~5%高まる。

空気の主成分の窒素が不燃性で、高温を作りにくく、
開発は着手した82年から難航。
橋本貴雄・三菱重工技師長は、「最初は全然うまくいかず、
理論的に難しいとも言われて苦しんだ」

欧米から10年遅れの07年末、運転を開始。
1年目、信頼性の目安の連続2000時間運転を世界で2基目に達成。
斉藤鉄夫環境相が、小名浜火力発電所(仮称)への環境影響評価で、
「IGCC並みの対策をしてほしい」と語るまでに成長。

◆注目の地中貯留

豪クイーンズランド州は、既存の計画を破棄し、
日本の技術導入を決めた。
州の出資法人が、資金約43億豪ドル(約3300億円)を調達。
出力53万キロワットで、15年に稼働する計画。

CO2を放出せず、地下に埋め戻す「回収・貯留(CCS)」技術も、
同時に実証する世界初の商業規模の事業。
CO2が65%回収され、今回の最新技術が導入できれば、
排出は天然ガス発電の新鋭機並み。
石炭発電の限界への挑戦。

日本の経済産業省も、「クリーンコール政策」で排出ゼロの
石炭発電構想を発表、実証機でも福島沖の枯渇ガス田でCCSを行う。

◆狙いは海外市場

実証機を運用する、クリーンコールパワー研究所の石橋喜孝副社長は、
「国内で商用化し、初期不良をこなしてから輸出したい」、
国内は、石油危機後の比較的新しい石炭発電所が多く、
建て替えの動きは乏しい。
商業用のIGCC計画は、中国電力三隅2号機(40万キロワット)の
17年度稼働のみ。

米国や中国の老朽機建て替えに、温暖化対策と販路の両面から期待。
豪の事業を受注した三菱重工は、従来の石炭発電の2倍程度に
コストを抑えるのが課題、年間新設10基、
30年に最大80兆円市場を見込む。
福江一郎副社長は、「(温暖化交渉の過程でも)ダークホースとして注目」
IGCCには通常のボイラーでは、質の悪い石炭ほど使いやすく、
特に使い道のなかった褐炭への応用が期待。

「資源獲得競争の中、技術を磨かなければ、生産地から相手にされない」
と経産省の担当者は強調。

http://mainichi.jp/life/ecology/archive/news/2009/07/20090706ddm016040003000c.html

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