2008年6月19日木曜日

[第1部・ルーマニア](下)細る体操王国

(読売 5月10日)

女子体操の強豪、ルーマニアで、代表監督の背負う重圧はすさまじい。
2005年に就任したニコラエ・フォルミンテ氏(51)は北京大会で、
初めて五輪の指揮を執る。
「選手は余計なことを考えず頑張ればいい。責任は我々がとる」
と声を張り上げて一転、肩をすぼめた。
「実は今の時代、うまく指導するのは難しいんだ」。
社会の変化の波は、体操界にも及んだ。
一流選手を目指す子供が、減っている。


首都ブカレストから北西へ約400キロ、人口8万人のデバ。
1978年に開校した「国立スポーツ専門学校」が、強化の拠点。
シニアのナショナルメンバー14人は、敷地内の寮に住み込み、
7人のコーチに見守られ、1日に6~8時間の練習。

常に世界の頂点を狙う姿勢は30年間、全く変わらない。
ただし、樹木の幹は同じ太さでも、枝葉の形が以前と違う。

例えば、1年に1度しか許されなかった家族との面会は近年、
事前に手続きをしておくことで、無制限に認められる。
体重の増加を防ぐための食事制限も、ほぼ自己管理に任されている。
フォルミンテ氏が、「厳しすぎると、ついて来ない子が出るかもしれない」。

実際に、トラブルが起きている。
五輪で3個の金メダルを獲得したカタリナ・ポノルが、
何度も引退と復帰を繰り返し、昨年の世界選手権後に表舞台から消えた。
実力は衰えていない。
関係者によれば、「生活まで縛られるのは、おかしい」と、
集中強化システムに対する不満をぶちまけ、結局、代表チームを去った。

専門学校のアドリアン・リーガ校長は、
「インターネットの普及などで、情報収集が簡単になった。
子供の価値観の多様化が、体操人口の減少につながっている」。
都会から遠く離れたデバは、かつて少女たちを体操以外の刺激から
隔離するのに、うってつけの環境。
もはや、その壁はなくなったも同然。

もう一つ。 「(89年12月の革命で)社会主義体制が崩壊し、
体操での成功が、必ずしも人生の成功と結びつかなくなった。
だから、若者はスポーツよりも、コンピューターなど、
将来の就職に役立つことをしたがる」(リーガ校長)

ルーマニアは、07年に欧州連合(EU)加盟、社会全体が変革の途上。
ナディア・コマネチらを輩出した伝統国にとって、
本当の試練は、これから訪れるのかもしれない。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080510.htm

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