2008年6月15日日曜日

[第1部・ドイツ]乗る、育てる…馬は友達

(読売 5月1日)

午後6時、気温はマイナス1度。馬も人間も、吐く息が白い。
ドイツ北西部は3月下旬でも、まだ寒い。
「1、2、1、2……。もっとリズムを作って」。女性指導員から声が飛ぶ。
馬上の少女は14、15歳。
ほおを真っ赤にしながら乗馬を続けていた。

ノルトライン・ウエストファーレン州中部の町ワーレンドルフ。
馬術協会、オリンピック委員会馬術支部(DOKR)、国立乗馬学校。
歴史を感じさせる古い建物と厩舎が立ち並ぶ。
全国地図に載っていない人口4万人足らずの小さな町が、
ドイツ馬術界の聖地。

DOKRには、馬術を志す少年、少女が各地から集まり、指導を受ける。
厳しさの中に、ときおり笑顔も交じる指導風景。
過去に34個の金メダルを獲得した強さの秘密が、ここにある。

「ドイツ人のまじめな性格や我慢強さは、乗馬に向いている。
馬の育成に時間がかかる」。
力説するのは、前回のアテネ五輪馬場馬術団体で金メダルを獲得した
フベルトス・シュミット

五輪で唯一動物が参加する馬術は、いかにいい馬を育てるかが勝負。
馬をリラックスさせ、柔らかく動かす騎乗に定評があるシュミットは、
馬に乗ること以上に育てることが、ドイツ人に合っているという。

DOKRで少女が乗っていたライトポニーは、
小型馬のポニーを他品種と掛け合わせ、
子供の乗馬用にわざわざ作られた品種。
種付け、売買、調教。
すべてが産業として成り立ち、いい馬を生み出す土台に。

ブリンクマン・グループといえば、バスケットボール界のナイキのような存在。
乗馬服のピカー、乗馬用品のエスカドロンを中核に、
複数の高級ブランドを傘下に従え、年商はグループ全体で
2億4000万ユーロ(約390億円)。ドイツ代表の制服も請け負う。

グループ代表のウォルフガング・ブリンクマンさんは、
「馬術から学んだのは、人を信頼すること。
それがなければ、サッカーをやっていた」。
やり手のビジネスマンとは思えない温和な表情。
1988年ソウル五輪で団体優勝した後、補欠選手に
個人の出場権を譲った美談でも知られるが、
「僕らの時代は、馬術はみんなで助け合う団体スポーツだった」。

現在も、週末は各地で“草馬術”の大会が開かれ、
10歳足らずの子供から大人までが技術を競う。
ドイツの人々が馬に注ぐ優しい視線。それこそが強さの秘密。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080501.htm

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