2008年6月21日土曜日

[第1部・ブルガリア](下)指導陣確執 癒えぬ傷

(読売 5月14日)

「一匹オオカミの首が太いのは、すべてを自分で賄うからだ」と、
他力にすがる行為を戒めることわざが、ブルガリアに存在。
幅広い分野で、優秀な個人が多く存在するにもかかわらず、
集団行動が苦手で能力を発揮し切れない。
自他共に指摘する国民の特徴。
かつての輝きを取り戻そうと苦しむ新体操界は、その縮図。

ネシュカ・ロベバさん(61)。
代表チームのヘッドコーチとして黄金期を実現した指導者は、
今、ソフィア市内でダンス・カンパニーを主宰。
「もう競技の世界には戻らない。嫌気がさしてしまった」。
1999年の世界選手権で惨敗した責任をとり、辞任。
しかし、本当の理由は連盟のマリア・ギゴバ現会長(61)との確執。

2人とも、60年代後半~70年代初めの名選手。
「現役時代に格上だったギゴバが、成功したロベバに嫉妬した」、
「ロベバが富と名誉を独り占めしたせいだ」。
中傷が飛び交ったが、この手の話で理由は後から膨らむもの。
真相はともかく、感情のもつれは明らかにあった。

当時、日本からコーチ留学して指導力を認められ、
ナショナル選手の強化に携わっていた山本里佳さんは、
双方の間を駆け回った。
「どちらも新体操を愛していたから、悲しくて仕方なかった。
『意地を張らないで手を取り合って』と説得したんですが……」。
結局、溝は埋まらなかった。

首脳陣の衝突は、後進にも波及。
89年に社会主義体制が崩壊して混乱の時を迎え、
イグナトバ、ゲオルギエバ、パノバといった元女王たちは、
生活の糧を求めて国外へ去った。
一枚岩でない組織は、彼女らを引き留められなかった。

現ヘッドコーチのイリアナ・ラエバさん(45)は、
「昔は選手だけでなく、コーチの養成も優れていた。
指導者を育てるスタイルを持っていたから継続性があった」と、
自戒を込めて決意した。

「コーチが一体となって強化にあたる。
選手の育成を含め、北京には間に合わないけど、
ロンドン五輪までに何とかしてみせる」

練習場の確保もままならなかった時代は、ようやく終わりを告げ、
2年前に新しいナショナルチームの体育館がオープン。
改修費約1億6000万円で、フロア3面のアリーナ、マッサージルーム、
30人収容の宿泊施設、食堂などを整備し、
トレーニングの環境は飛躍的に改善。
まだ遠くにかすんでいるけれど、復活への光は確かに見えている。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080514.htm

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