2008年6月20日金曜日

学生をつくる(3)日本語鍛え 学ぶ姿勢

(読売 6月5日)

予備校からも人材を得て、習熟度別に日本語を教える大学がある。
「見て!『新明解』の『恋愛』の説明、生々しい~」、
「こっちは、あっさりだよ」、「おもろいやん」

5月初め。連休前の街のにぎわいをよそに、
京都精華大学(京都市)の講義室では、約30人の学生が
机に積んだ6種類の辞典を熱心に見比べては声を上げていた。
「日本語リテラシー」の授業。
リテラシー(読み書き能力)にとどまらず、自ら調べ、考え、表現できる
大学生に育てることを目指した人文学部1年生の必修科目。

新明解国語辞典(三省堂)の面白さをつづった「新解さんの謎」
(赤瀬川原平著、文春文庫)を読ませ、
実際に他の辞典と比べて感想を書かせていた。
辞典の使い方を覚えさせるだけでなく、日本語の豊かさに気づかせる。

「今の子は、関心の対象が狭いが、語彙が豊かになれば関心も広がる。
そこから大学での学びが始まる」。
大手予備校の河合塾と駿台予備学校で、小論文を通算約20年教えた
日本語リテラシー教育部門長の森下育彦教授(53)が授業内容に胸を張る。

森下教授は、事実羅列型文章の多さが気になっている。
例えば「私の好きな季節」を書かせると、「春は花が咲く。入学式がある」と
表面的な現象を連ね、なぜ好きか伝えようとしない。
「工夫しなくても伝わるメールに慣れているからだろうか」

本格的に授業が始まったのは3年前。
日本語リテラシー教育部門は、学長直属の組織として発足、
学外からも人材を集めた。
教員4人と助手10人でチームを編成し、徹底的に指導をするため、
課題作文を書かせて習熟度別クラスに分ける。
漫画や映画も教材に、課題に沿って何を書きたいかをメモ。
それを元にした討論や教員との面談、添削指導も経て、
1学期に1000~2000字の課題作文五つを完成。

今年の場合、約450人の1年生が30人前後ずつの11クラス。
課題は、上位クラスでは、「記憶に残ること」、「他者との間合い」、「変身」
など抽象概念も入り、下位クラスでは「私が影響を受けた人・モノ・こと」など。
学生の自尊心に配慮し、森下教授なら「Mクラス」など
担当教員の頭文字で表示する。
どのクラスでも、課題を通して自分を客観的に見つめ、
他者とのかかわり方を考えさせる構成は共通。

欠席すると、呼び出しを受けるほど出席管理は厳しいが、
昨年度の学生満足度は、どのクラスも9割以上。
人文学部は今年度、定員割れ。
在籍学生の高評価が受験生には届かない。

悩みながらも今後、同様の授業を、漫画、芸術、デザインの3学部にも
広げ、全学的な取り組みに。
漫画家でもあるヨシトミヤスオ副学長(70)は、
「学生の学びを、大学側が一からきちんとおぜん立てしなければ
ならない時代だからだ」

◆大学生の日本語力

独立行政法人「メディア教育開発センター」(千葉市)は4年前から、
入学したばかりの大学1年生に、日本語の語彙力、文法や漢字の
知識を問うテストを実施。
昨年度の調査(54大学、約2万9000人)では、国立大の9割が
高3レベルだったが、私立大では中1から高3まで幅広く、
中学生レベルが6割以上の大学も。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080605-OYT8T00262.htm

0 件のコメント: