2008年6月17日火曜日

[第1部・ハンガリー]動乱直後「金」 水球は特別

(読売 5月8日)

ハンガリーは、世界一の水球国。
五輪で8個の金を含む14個のメダルを獲得し、
男子は北京五輪で3連覇を目指す。
中欧の真ん中に位置する海なし国だが、
全土からわき出る温泉を利用し、各地にプールがある。
ハンガリー水球連盟のジョルジ・マルティン会長は、
「一年を通してプールを利用できるのが利点」。

環境に恵まれたハンガリーでは、もちろん競泳も強い。
しかし、男子水球日本代表で、1部リーグのフェヘールバールで
プレーする長沼敦(25)が、「日本では考えられないが、
ここでは水球がプールの真ん中を占領し、競泳の人は端の方で泳いでいる
と驚くような特別な地位を得ている。

背景には、社会主義時代の悲しい事件。
1956年10月。ソ連(当時)の影響力に反対した労働者や学生が
自由を求めて立ち上がった。
ハンガリー動乱と呼ばれる事件は、ソ連軍の戦車2500両によって
踏みつけられ、1万7000人以上が命を落とす結末。

直後の11月末から行われたメルボルン五輪男子水球。
ハンガリーは、決勝でユーゴスラビアを1点差で破って、金メダルを獲得。
しかし、人々の記憶に刻まれたのは準決勝。
相手はソ連。その相手を4―0で下したから。
当時の主将、デジェ・ジャルマティさん(80)は、
「ラジオで結果を聞いたハンガリーに残った人、国外に亡命した人たちに
勇気を与えることができた」と振り返る。

試合中、接触プレーでハンガリー選手の右目の下が切れた。
その様子は、多くの血が流されたハンガリー動乱になぞらえられ、
「メルボルンの流血戦」として長く語り伝えられる。
「ソ連に勝ったということは、みんなの支えになった。
水球だけの歴史ではなかった」とジャルマティさん。
不幸な事件と、五輪での栄光が、
水球をハンガリー人にとって特別なスポーツに変えた。

社会主義時代に水球は、政治集会以外では最も人を集めるイベントで、
女性は着飾って会場に駆けつける晴れの場。
今は、金髪で長身のアイドルのような選手に、黄色い声援を送る
10代の女の子が観客の半分を占める。
ジャルマティさんは、「時代やファン層は変わっても、
水球の人気は続いている」と、目を細めた。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080508.htm

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