2008年6月10日火曜日

[第1部・フランス](下)エリート育成 国主導

(読売 4月22日)

パリから南東へ約20キロの閑静な町・スーシー。
講道館柔道の祖・嘉納治五郎師範の写真を掲げた
110畳もの広い道場を持つ柔道クラブは、熱気にあふれていた。
年配の男性に交じり、「健康作りが目的」という若い女性や子供の姿も。
打ち込みや乱取りに励む姿もさまになっている。

「将来は五輪選手になりたい。内またが得意なの」と
目を輝かせる中学生のレア・サルディさん(13)の横で、
母親がほほ笑みながら語った。
「うちの子は、エネルギーがあふれているから柔道をやらせたの。
少しはおとなしくなるんじゃないかしら」

柔道メディア研究を手がけるミシェル・ブルース仏ボルドー大教授(55)は、
フランスで隆盛を極めた要因の一つに、
「非行セラピーの役割がある」と指摘。
「柔道をやれば、恥ずかしがり屋の子は積極的になるし、
けんかっ早い子はおとなしくなるケースが多い」。

男子100キロ超級世界王者のテディ・リネール(19)が、
中学生のとき親から「少年院に行くか、柔道を続けるか」と
柔道クラブに放り込まれたのは有名な話。

礼に始まり、礼に終わる柔道。
フランスでは、どの道場にも「八つの心得」が大きく掲げられている。
「礼儀」、「勇気」、「友情」、「克己」、「誠実」、「謙虚」、「名誉」、「尊敬」

これだけ教育的価値の高い習い事を、行政サイドも放っておくはずがない。
普及からトップの強化まで、国レベルでの一貫した指導態勢が構築。

国内に5500か所もある柔道クラブには、
国家資格を持ったコーチを置くことが、1955年から義務づけ。
スーシークラブでコーチを務めるフィリップ・ブカル六段(49)は、
「国のお墨付きがあるので、両親も安心して子供を預けてくれる」。

子供たちが集まった各クラブは、エリート育成のための
重要な人材供給源の役割も果たす。
優秀な選手は、ジュニアの時から各地域で選抜され、
その中のエリート選手が、ナショナルチームの強化を担当する
INSEP(国立スポーツ研究所・体育学校)で、英才教育を受ける。

学校や企業の柔道部が強化の拠点となっている日本とは
全く違うシステムは、まさに「プロ養成」そのもの。
無邪気な子供たちが、笑い声を出しながら練習に打ち込む地域のクラブ。
だが、そののどかさこそが、柔道大国、フランスの強さの源泉に。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080422.htm

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