2008年6月14日土曜日

[第1部・ロシア]「芸術」支える好調経済

(読売 4月28日)

「周囲のバックアップには、本当に感謝しているわ」。
スラリと伸びた長い手足。シンクロナイズド・スイミングの
ソロの女王として世界に君臨するナタリア・イーシェンコは静かに話す。

国際大会で優勝したロシアのスポーツ選手への報酬はすさまじい。
五輪の金メダル、世界選手権優勝クラスだと、
30万ドル(約3090万円)が手渡され、
さらに時価5000万円はするというモスクワの高級マンションが与えられる。
イーシェンコ本人は語りたがらないが、2006年のワールドカップで
優勝した彼女が、それに匹敵する報酬を得たのは、間違いない。

報酬は、どこから支払われるのか?
ロシア・シンクロ協会のイーゴリ・カルタショフ副会長が事情を説明。
プーチン大統領が知り合いの企業家たちに頼んで、金を出させる。
企業家たちも大統領に言われると、嫌とは言えない。
仕事がしにくくなるから」。

豊富なエネルギー資源を背景に、空前の好景気に沸くロシア。
専用のジェット機を持ち、高級車を乗り回す
新興の企業家たちが選手をサポート。

ロシアは、シンクロで圧倒的な強さを誇っていた。
五輪では2000年以降、金メダルを独占。
高い芸術性が強さの秘密。

84年のロサンゼルス五輪で銅メダルを獲得し、
現在国際審判員を務める本間三和子(旧姓元好)・筑波大准教授は、
「私が今まで見てきた演技の中で、背中がゾクッとしたのはロシアだけ」。
切れ目のない優雅な所作と音楽にあった動き。
歴史的に数多くの作曲家、演奏家を生みだし、
バレエやダンスの伝統を持つ国。
「あの芸術性は、他国には絶対にマネできない」。

ロシアには、もう一つの“伝統”がある。
全国から5~7歳の優秀な選手を集め、徹底的な英才教育を施す。
年代ごとにふるいにかけ、生き残ったエリートだけが代表チームに入れる。
「まさに共産主義的な選手育成法と言える。
ソ連邦崩壊後、この育成法はいったん中断したんだけど……」。
復活させた張本人のイーゴリ副会長はニヤリと笑った。

政治体制が変わっても、脈々と受け継がれた芸術家気質。
共産主義時代に生まれたスパルタ教育法。
現在の成長経済を背景にした強力なバックアップ態勢。
シンクロの強さは、激動の国ロシアを象徴。

輝く金髪に青い瞳。
「ええ、もちろん私は現政権を支持するわ」。
まだ22歳のシンクロの女王は、ためらいなく言い切った。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080428.htm

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