2009年3月23日月曜日

どこまで減らす(上)モデル分析 裏方の挑戦

(読売 3月17日)

温室効果ガスの排出を極限まで減らした暮らしとは、どんなものなのか?
「自然の力をうまく取り入れた快適な生活です」
横浜市の金子雅人さん(60)は言う。

金子さんが住むのは、上下水道を除くエネルギーの97%を、
太陽光や風力などの自然エネルギーでまかなう実験住宅。

技術者として32年務めた三菱重工業と関連会社が作った。
販売に向けた実験に協力し、先月から妻、子ども2人と暮らす。
地下室には、まな板のような白いプラスチックの蓄熱板が60枚ぶらさがる。
冬場は、屋根の太陽光発電パネルの下から取り入れた暖気を昼間蓄え、
夜間に室内に循環させる。

妻の佳子さん(61)は、「朝台所に下りてきても、寒くないんです」
夏場は、地中の冷気を蓄え、室内の冷房に使う。
建設費は、一般住宅の3割増し程度を見込む。

日本は、2020年までに何%の温室効果ガス削減を目指すのか?
政府は6月までに決めるとしている。
政府の中期目標検討委員会の事務局・内閣官房の日下一正参与は、
「中期目標は、政府が決めれば自動的に達成できる訳ではない。
国民や経済界が、生活様式の見直しを含め、全員野球で取り組む必要がある」

日本の場合、ガスの約9割はエネルギーの生産や消費に伴って出るCO2。
委員会では、省エネ技術の普及でエネルギー消費やCO2排出量が
どのくらい減るのかを試算する排出モデルと呼ばれるプログラムを使い、
国立環境研究所(国環研)など5研究機関が分析を進める。

ハイブリッド車などの次世代自動車が、新車に占める割合を
81%(06年度1・7%)にし、住宅用の太陽光発電装置を
1770万戸(07年度末約40万戸)に――。
委員会の資料「1990年比で約25%減らすための対策」は、
国環研の増井利彦さん(38)らがはじきだした。

モデル分析を行う研究者は、モデラーと呼ばれる。
増井さんは阪大大学院時代、国環研モデルの生みの親である
森田恒幸氏(2003年9月死去)の指導を受け、
温暖化政策を科学の面から支える仕事の面白さにふれた。
「将来の社会の姿を、科学的に予測できるのはモデルだけ」と胸を張る。

京都議定書を採択した1997年の京都会議(COP3)。
日本は、実質2・5%削減の政府案を掲げてのぞんだ。
政府関係者は、「想定していた削減可能量を超えた6%削減目標を、
最後はのんだ。まさに日本政府にとってトラウマ」と振り返る。
2007年度の排出量は、8・7%増。達成困難との声も出る。

展開の見通せない国際交渉や予測困難な経済動向に伴う排出量の変化。
中期目標づくりの裏方、モデラーたちの真価も問われる。

http://www.yomiuri.co.jp/eco/kankyo/20090317-OYT8T00570.htm

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