(読売 3月18日)
赤茶けた鉄さび色のプラントが林立する住友金属工業鹿島製鉄所(鹿嶋市)。
中国鋼鉄工業協会の視察団31人が、最新の排ガス処理施設を
食い入るように見つめていた。
「製品あたりのエネルギー消費は」、「排ガスの監視方法は」。
通訳に休む間も与えず、日本側の担当者を囲み、矢継ぎ早に質問を浴びせた。
立ち会っていた神戸製鋼所鉄鋼部門技術総括部の下里比佐志さん(48)は、
ノウハウを吸収しようとする熱気を感じた。
日中の鉄鋼業界が相互に訪問し、技術交流を始めたのは2005年。
今回が4度目だ。
中国の狙いは、競争力強化につながる排ガスの熱回収などの省エネ技術や
大気汚染対策、資源リサイクルなどの環境技術。
国際競争にさらされる日本の鉄鋼業界が、
ライバル国に技術を公開する理由は、
京都議定書に続く枠組み作りの国際交渉をにらんだ戦略。
中国は、1997年から10年間で粗鋼生産量を5倍に増やし、
今や世界の3分の1を生産する世界一の鉄鋼大国。
日本鉄鋼連盟によると、中国の鉄鋼部門だけで日本の総排出量の
約8割にあたる10億トン以上のCO2を出すとみられる。
鉄鋼生産が急増する中国やインドは、京都議定書で削減義務を負わない。
下里さんは、「議定書の削減目標に向けた努力はする。
しかし、ポスト京都の枠組みでは、鉄鋼部門で世界共通のエネルギー効率の
基準をつくり、公平な条件で勝負したい」と訴える。
温暖化対策を目的に、米の呼びかけで始まった技術移転活動で、
下里さんは07年末から、中国とインドの製鉄所を相次いで訪問、
1か所に3日間ずつかんづめで「省エネ診断」。
製鉄所の省エネの専門家としてキャリアを積んできた下里さんは、
「石油危機以来、30年以上省エネばかりやってきた日本からみれば、
中印が削減できる幅は大きい。世界規模の削減を近道で実現したい」
交流事業の責任者の一人、新日鉄環境部の岡崎照夫さん(55)は、
「途上国は、温暖化対策としてよりも競争力強化の手段として、
省エネに関心がある」
鉄鋼業界の削減目標達成のため、途上国での排出削減分を買う交渉に
世界を飛び回り、日本の置かれた不利な立場を痛感。
中国企業から、「日本で削減する方が高くつくのだから」と
法外な値段を示され、憤然と席を立ったことも。
岡崎さんは、「発展し続ける中国やインドを巻き込むしかない。
われわれが技術を通じた交流を重ねるのは、
削減を促す仕組み作りにつなげたいからだ」と明かす。
その言葉には、先進国が厳しい削減を課せられるだけに終われば、
日本の産業の国際競争力は失われてしまう、との危機感。
http://www.yomiuri.co.jp/eco/kankyo/20090318-OYT8T00378.htm
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