2009年3月26日木曜日

未来育て:第4部・格差と少子化 特別編 出生率1.78「産み育てやすい町」に学ぶ

(毎日 3月14日)

◇静岡県長泉町の取り組み

医療費助成や保育サービスの格差など、
産み育てようとの思いを阻害する要因を探ってきた「未来育て」
長期にわたって総合的な子育て支援策を実行し、出生率を上昇させた
静岡県長泉町の取り組みから、今求められる政策を考える。

北側に白銀の富士山を望む長泉町は、人口約4万人。
07年の合計特殊出生率(女性が一生に産む子供の平均数)は
全国平均の1・34を大きく上回る1・78。
出生率は、99年から上昇傾向で、
子育てしやすい町として、全国から視察団が訪れる。

町立中央保育園の2階にある子育て支援センター「アップル」。
小雪が舞う中、乳幼児を連れた母親たちが次々とやって来た。
母子が一緒に歌をうたって、ひな祭りを楽しんだ。

就園前の子とその保護者が対象の同センターは、
「ベビーカーを押して通える範囲」という狙いで、町内に3カ所設置。
保育園の併設で保育士が常駐し、参加費は無料。
アップル開設は99年。
今ではどこにでもある施設だが、全国的に見て設置は早い。
子育て世帯が多い横浜市(人口約365万人)でも、
同様の施設は各区に1、2カ所で、同町の充実ぶりが分かる。

1歳半の長男を連れてきた山田愛子さん(35)は、妊娠5カ月。
「つわりがひどくて、子どもの相手ができない時、ここにくれば安心です」
山田さんは、結婚と同時に同町に転入、周りに友人、知人がおらず、
出産直後は心細かった。
自宅近くにある別のセンターや地域のボランティアが開く
遊びの広場のおかげで、子育て仲間と出会うこともできた。

同町の少子化対策は、臨機応変で迅速だ。
例えば学童保育。
07年度末、08年度の希望者を募集した際のこと。
相当数の待機児童が出ることが分かると、すぐさま予備費を投入し、
2カ所にプレハブの施設を建て、4月入所に間に合わせた。
今年4月には、常設の施設に衣替えされる。

乳幼児医療費の助成は、73年に始めた。
全国に先駆け、2歳までの医療費を無料化。
02年には就学前、07年に小学3年修了まで引き上げた。
就学前までの助成が、全市町村の8割に達したのが08年、先見性が分かる。
09年度予算、医療費助成をさらに中学3年まで引き上げ、
小学校を増築して28年ぶりに学級数を増やす予定。

同町は、東海道新幹線や東名高速道路、国道246号など交通網に恵まれ、
多業種の大規模工場があり、雇用の場も多い。
財政的な余裕も生まれ、地方交付税の不交付団体になって25年以上。
子育て世代が定着することで、生産人口が増え、税収が上がり、
それを子ども関連予算に回す、という好循環が働く。

同町の09年度当初予算は約124億5000万円、
子育て支援関連は約40億7905万円で、33%。

秋山勉こども育成課長は、「現町長も前町長も、子育て支援に理解があり、
高齢化率も低かったので、子どもにお金を回すことができた。
国全体が少子化に向かう中、どこまで投資できるか役場でもよく議論に。
しかし、現に子どもの数は増えている」

少子化対策に特効薬はないと言われる。
7年前から同町について調査研究している国立社会保障・人口問題研究所の
佐々井司人口動向研究部第1室長は、「出生率が上がったのは、
雇用機会や交通の便に恵まれたことが大きい。
上昇が長期で続いているのは、子育て支援策の効果

長泉町には、「産み育てやすい町」という評判を聞いて、転入する人も。
同町のような条件をそろえるのは、難しいかもしれない。
町の活性化を図るためにも、若年層の結婚や出生を安定的に維持する
雇用の確保と、地域にふさわしい子育て支援が必要。

◇今こそ正念場、担当相へ権限集中を

内閣府の少子化担当参事官として企画立案に携わった
増田雅暢・上智大教授に少子化対策の経緯と課題を聞いた。

最初の少子化対策「エンゼルプラン」(94年末)は、
今から見れば保育所の拡充など、内容が限定的。
当時、出生率は1・5まで低下していたが、いずれ回復するとの期待もあり、
危機意識は乏しかった。

99年末「新エンゼルプラン」から総合的な計画になり、
次世代育成支援対策推進法や少子化社会対策大綱などができた。
しかし、財政が厳しく、予算確保は難しくなった。
06年、ようやく児童手当を拡充することができた。

少子化対策は対象が限定的で、他の社会保障政策に比べ、予算規模は小さい。
妊婦健診の無料化に1人12万円かけても、
出生数約100万人なら1200億円程度。

団塊ジュニアが30代後半にさしかかった今が、日本の少子化対策にとって
一番重要な時期。
内閣府に少子化担当相を置いても、権限や予算は他省庁が持ち、
思い切った対策を打つのは難しい。
省庁の縦割りをやめ、担当相に権限を集中させるなどの見直しが必要。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/03/14/20090314ddm013100134000c.html

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