(読売 3月18日)
大学経営のプロの目に、日本の大学はどう映るか。
「個々の大学が、ミッション(役割や使命)をはっきりさせること。
ミッションがしっかりしていないから、偏差値という一本軸で選ぶことに」
全入時代を迎えた日本の大学に、いま何が一番必要か?
大学院で大学経営のプロを育てる桜美林大学教授、諸星裕さんに問うと、
こんな答えが返ってきた。
中央教育審議会が、学部教育で身につけるべき「学士力」の参考指針を
示したが、「共通試験の導入まで考えているとしたら大間違い」とクギを刺す。
近年、教育力で高い評価を受ける国際基督教大学(ICU)出身。
米ミネソタ州の州立大で教授、学部長代行、秋田校学長を務め、
米国で大学評価委員をした経験も持つ。
手腕を買われ、桜美林では副学長として改革を手がけた。
現在、他の複数の大学の改革にも助言者としてかかわる。
国情は違っても、日本の大学が米国の後を追うと確信。
「終身雇用の崩壊など、社会が米国を追い続けている。
大学だけが例外ということはあり得ない。
米国型社会は、大学にいつごろ、どういう形で行くかを
個々の学生が決める社会になる」
高校を出てすぐに入学、4年で卒業というコースが普通でなくなれば、
自分を伸ばしてくれる大学かどうかが、より大事になる。
日本では無名でも、米国には「世界のどこにも負けない最高の教育をする」と
宣言して、有力大の大学院に多数の学生を送る大学も。
日本で入学後の伸びしろが大きい例として、金沢工業大学を挙げ、
「入学前の学力を考慮すれば、学生の力を引き上げるのは
金沢工大と東京工大どちらが難しいか。
それが社会に理解されれば、大学の評価は変わる。
偏差値で大学を選ぶなんて愚の骨頂」
全入時代の学部教育は基本的に教養教育で、
専門は大学院で学ぶことになる。
「パンキョウ(一般教養)と軽く言われた時代と違う。
大学の将来を考えれば、教養教育にエースをぶつけるべき」
大学選びでは、ミスマッチを防ぐため、入学後の進路変更で
どれだけ融通が利くかがポイント。
学生に授業評価の意味を自覚させているか?
評価結果を教員にきちんと伝えているか?
GPA(各科目の評定の平均値)制度を厳格に運用しているか?
その結果を受けた学生に奮起を促す方策は?
カリキュラムの体系化は図られているか?
諸星さんに言わせれば、日本の大学がやるべきことは山ほどある。
「科目名が同じ犯罪学であっても、教員が変われば加害者学が
被害者学になる例も珍しくない。
カリキュラムが体系立っていないと、設立時の審査では通らない
カリキュラムがまかり通ってしまう」
大学を評価する認証評価機関が、そのチェックの役割まで果たせるか?
「確かに日本的風土では難しいが、
『こんなはずじゃなかった』という受益者の声が高まれば、大学は変わるはず」
「そもそも、大学は人脈を作る所だと言って、
学生を遊ばせておくだけの余裕が、日本の社会にありますか」と繰り返した。
昨今の経済情勢を考えれば、このひと言は重い。
◆もろほし・ゆたか
1998年から桜美林大教授。
著書「消える大学 残る大学」(集英社)で、日本の大学の進むべき道を示した。
テレビのコメンテーターとしても活躍中。62歳。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090318-OYT8T00369.htm
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