2009年3月25日水曜日

理系白書’09:挑戦のとき/6 宇宙航空研究開発機構研究員・宮下幸長さん

(毎日 3月15日)

「大変名誉な偉業が達成された」
地球電磁気・地球惑星圏学会の会員用掲示板に、こんな内容が紹介。
オーロラ発生時に宇宙で起きている現象を、宮下さんが明らかにし、
評価されたことを指す。

論文は、この分野で最も権威ある米地球物理学会誌(JGR)に発表。
掲載日(1月22日)の翌週から3週連続で、
宇宙科学部門のダウンロード件数1位を達成。
同部門の研究者は国内に数百人いるが、トップも3週連続も日本人初。
上出洋介・京都大特任教授は、「3週連続1位は外国人でも聞いたことがない」

オーロラは、宇宙からやって来る電子が高度100~400キロの大気と
衝突して光る現象。
真夜中に突然光り、空全体が明るくなった後、西へ東へ、極方向へと
乱舞するものは「オーロラ嵐」と呼ばれ、
発見した赤祖父俊一・米アラスカ大名誉教授が64年に命名。

オーロラ嵐の源の電子はいつ、どこで供給されるのか?
観測は難しく、半世紀近く論争が続いてきた。

地球を囲む磁気圏は、彗星のようにたなびいている。
宮下さんは、日本の科学衛星「ジオテイル」を含む3基が
地表から2万~20万キロを飛行し、とらえた電場や磁場などのデータを解析。
米国の衛星「ポーラー」などが撮影した画像と合わせ、
3787件のオーロラ嵐を3年かけて調べた。

その結果、(1)オーロラ嵐の発生2分前、高度9万6000~12万キロで
地球の磁力線がつなぎ変わる「磁気再結合」が起きる
(2)ほぼ同時に、高度4万~6万キロで電流が激減する
「磁気双極子化」が始まる
(3)二つの現象で、磁気圏に蓄えられたエネルギーが放出され、
電子が毎秒1000キロで地球に向かう
(4)電子が地球大気と衝突し、オーロラ嵐が発生する--と解明。
長年の謎に、一つの答えを示した。

小学生のとき、湯川秀樹博士の伝記で「発見の面白さ」を知り、
京都大に進んだ。
研究室めぐりでオーロラ研究を知り、「何となく関心を持った」と飛び込んだ。
膨大なデータを扱う地道な作業だが、「コツコツ型の性格に合った」

大学院2年で最初の論文を発表、その後も毎年、一流誌に成果を出す。
自宅でもクラシック音楽を聴きながら、深夜までデータを眺める。
熱中ぶりに、妻(29)から「家では研究を忘れてほしい」と言われるほど。

オーロラ嵐の発生時の出力は、大型発電所1000基分の100万メガワット、
その影響で停電も起こる。
04年、フィンランドで初めてオーロラを見た。
「壮大な自然の姿に迫る」と意気込む。
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◇みやした・ゆきなが

横浜市出身。理学博士。02年京都大大学院博士課程修了。
旧・宇宙科学研究所研究員、名古屋大太陽地球環境研究所研究員を経て、
06年から現職。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/03/15/20090315ddm016040031000c.html

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