2009年6月9日火曜日

メタボ基準、異論百出…測定不要論も

(2009年6月3日 読売新聞)

メタボリックシンドロームを見つけるため、腹囲測定などを行う
特定健診・保健指導(メタボ健診)が2年目。
腹囲の基準に異論を唱える研究報告が相次ぎ、
専門家の間で見直し論議に拍車がかかっている。

心臓病や脳梗塞を引き起こす生活習慣病の原因として、
高血圧や高血糖、脂質異常と併せて肥満をチェックするのがメタボ健診。

腹囲の基準値は、男性85センチ、女性90センチ。
日本人の男女約750人のへその辺りの内臓脂肪面積を、
コンピューター断層撮影法(CT)で計測、100平方センチ以上になると、
高血圧や高血糖など、生活習慣病を引き起こす危険要因の数が増える、
という日本肥満学会のデータを基に算定。

厚生労働省研究班(班長=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)は
「心臓病や脳梗塞などの予防には、
メタボ対策よりも高血圧対策が重要」という研究結果。

40-69歳の男女約2万3000人を、平均11年間追跡したところ、
高血圧を治療すれば男性48%、女性で45%発症を減らせるのに対し、
メタボ解消では20%未満しか改善効果がないとの結論。

磯博康・大阪大教授(公衆衛生学)は、
「肥満を必須条件とする現在の基準では、やせていて血圧が高めの人など、
脳卒中や心筋梗塞になる危険性の高い人への対応が不十分になる」

愛知県の約3000人を対象にした別の厚労省研究班も、
「腹囲が大きいだけでは、生活習慣病との関連はそれほど強くない」、
腹囲の指標を切り捨てた。

腹囲の基準値を設けることに肯定的な研究者でも、
数値についての意見はバラバラ。

門脇孝・東京大教授(糖尿病・代謝内科)が班長の厚労省研究班は、
全国の男女3万3000人について、高血糖、高血圧、脂質異常と
腹囲との関連を調査。
中間解析では、男性84センチ以上、女性は81センチ以上になると、
2項目以上の異常を併せ持つ割合が約3倍高かった。
門脇教授は、「女性の基準は80センチが良いのではないか」

米国の基準は男性102センチ超、女性88センチ超。
国際糖尿病連合の基準では、欧州人が男性94センチ以上、
女性80センチ以上、日本人は男性90センチ以上、女性80センチ以上で、
いずれも男性の方が女性よりも大きい。

現在の基準は2005年、日本肥満学会など8学会が合同で決めた。
松沢佑次・同学会理事長(住友病院院長)は、
「CT画像から内臓脂肪面積まで測って、基準値を決めたのは日本だけ。
女性は皮下脂肪が多く、心筋梗塞の危険は男性より低い。
妥当な基準だと思うが、学会としてもデータを集め、検証をしていく」

厚労省は、「肥満は生活習慣病に大きくかかわっており、
健診で腹囲を測ることには意味がある。
だが、基準値については、見直しも含めて柔軟に対応したい」

世界保健機関(WHO)でも、腹囲の基準を決める作業を進めている。
決定版となる数値が示されるかどうか、注目される。

「ワイシャツをめくっておへそを出してください」
大手重機メーカー「コマツ」本社での特定健診。
会場の一角では、社員のおなかにメジャーがあてられ、
腹囲の測定が行われていた。

ある男性社員は、血圧などはすべて正常なのに、
腹囲は90センチと基準を5センチオーバー。
男性は、「なぜ取り立てて腹囲を問題にするのか。
なんだか不健康だと言われたようで……」と納得いかない様子。

血圧などに異常があっても、腹囲が基準以下のため、
指導の対象とならない社員も男性で約20%、女性は約15%いた。
担当者は、「本当に生活習慣病の危険がある人を抽出できているのか」
「85センチはだめだが、84センチならいいというわけではない」、
腹囲に関係なく、全員に保健指導を行う兵庫県尼崎市のような自治体も。

特定健診の狙いは、生活習慣病になる人を減らし、
医療費削減につなげること。
国は、生活習慣病にかかる医療費を約10兆円と推計。
これは医療費の3分の1に当たり、2015年度までに
患者やその予備軍を25%削減する計画。

日本看護協会は、07年度から先行的にメタボ健診を始めた
自治体や企業の健康保険組合の男女約400人の数値を分析。
1年間で、体重は1・4キロ・グラム、腹囲は1・8センチ減り、
血糖値と中性脂肪の数値も改善。

尾島俊之・浜松医大教授(健康社会医学)は、
「途中経過としては一定の効果が見られるが、
生活習慣病の減少につながるかは、長期的に見ていく必要」

◆特定健診・保健指導

企業の健保組合や市町村などの保険者に対し、
2008年度から、40-74歳の人を対象にした実施が義務付け。
腹囲に加え、血圧、血糖値、脂質のうち一つに異常があれば、
原則1回、面接指導を行う「動機づけ支援」、
二つ以上異常があれば、3-6か月継続指導する「積極的支援」が行われる。
受診率や保健指導の実施率などが低いと、
後期高齢者医療への財政負担が増すペナルティーを科す仕組みが導入。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2009/6/3/101160/

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