2009年6月10日水曜日

職員の力(3)「林業塾」演習林を活用

(読売 5月28日)

実習が不足しがちな農学部生のために、
職員が野外活動の場を作っている。

「ほら、これが常緑樹の落ち葉。
落葉樹と違って、こんなに厚くて硬いんだよ」
高知県香美市の国見山(標高1089メートル)の山腹に広がる
高知大学農学部の演習林。
普段は、実習や研究に使われている約127ヘクタールの広大な林で、
農学部森林科学科の「林業塾」が開かれていた。

林業塾は、2006年春、演習林を維持管理する「林の守り役」、
技術職員の長井宏賢さん(33)と今安清光さん(46)が発足。
演習林での実習時間不足を補うのが狙いで、
長井さんらが指導役を務める。
課外活動ながら、学生約40人が登録し、主な活動だけで、
飛び入りも含め毎年延べ約450人が参加。

学生たちは、月1、2回程度、長井さんらの指導を受けながら、
間伐作業、林道の補修、炭焼き、シイタケ栽培などを行う。
地域貢献活動として、地域住民を招いた自然観察会も開く。

同大で、森林生態や森林開発などを学ぶ学生の演習林での
実習時間は、意外に少ない。
2年生は5泊6日が1回だけ、3年生は6泊7日が3回、1泊2日が1回、
4年生は卒論準備で実習はない。

習うべき知識が多く、授業の多くが座学に費やされることなどから、
実習時間が取れない。
実習では、少ない時間で多くの技術や作業を学ぶため、
例えば樹木を伐採する体験も、1人が1本程度。

カリキュラムを組み替えるのは難しく、
教員は授業や学内運営で忙しい。
学生には、森で活動する工具や機材も、それらの使い方の知識もない。
「森を熟知している技術職員が、学生の意欲に応えようと思った」

この日は、地元の子どもたち25人を招いての自然観察教室。
参加した大学院生4人は、子どもたちと林道を歩きながら、
木々の名前や特徴を解説したり、
道端の山菜類の名前を当てるクイズを出したり。
長井さんは、学生たちの生き生きとした様子に、
「農学部には、自然に触れたいという学生たちが多い。
そんな学生たちの要望に応えられた」と満足そう。

案内役を務めた修士2年の金重光太朗さん(23)は、
「自分たちの研究を子どもたちに分かりやすく教えるのは、
林業塾でしか経験できない。
もっと自然に入って勉強したいと思っていたので、貴重な体験」と笑顔。

森林生態学を学ぶ修士2年の宇佐美敦さん(23)も、
「授業では1回きりで終わっても、
塾では継続的に自然にかかわれるのがうれしい」

3年を経て、演習林に自生する植物を使った草木染めや林道での
レースなど、学生ならではの企画も増えてきた。
大学側は、塾の教育効果を認め、単位認定の検討も始めた。

職員と学生の自主活動が、大学の教育を変えようとしている。

◆演習林

全国大学演習林協議会によると、全国の国公私立大学で
演習林を所有するのは27大学。
最大の面積を持つのは、北海道大学の演習林で約7万ヘクタール、
高知大は全国最小。
各大学では、樹木学や森林生態学、造林学の実習、
試験研究や技術改良の場としてだけでなく、
市民の学習の場に活用する動きも広がっている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090528-OYT8T00308.htm

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