2009年6月12日金曜日

職員の力(5)「育て直し」熱意と連携

(読売 6月2日)

教職員の連携で、学生の心を支える。

「カニだ!」「こっちは魚」
甲南大学から歩いて10分ほどの川辺。
初夏の日差しの中、網を手にした同大生数人が、歓声をあげる。
図鑑を抱えた学生が座り込み、「先生、アリが」と
付き添うカウンセラーに話しかけていた。

同大の学生相談室は、毎週金曜日の午後、
書道や陶芸など多様な活動に取り組む。この日もその一環。
ふだん相談室を利用したことがない学生にも参加を呼びかけ、
友だちづくりの場も兼ねた川辺散策となった。

カウンセラーたちは、学生の背中を無理に押したりはしない。
「学生が求めるのは、ありのままを受けとめる居場所」と、
専任カウンセラーの高石恭子教授(48)。

同大学生部に相談室ができたのは、1957年。
当初は職員が対応していた相談室は89年、臨床心理士が
カウンセラーとして常駐する組織として独立。

構内で学生が自殺したのを受け、「職員の熱意だけで対応するのは難しい」
と、専門的な組織への脱皮を求める声が高まった。
新しい相談室は学長直属で、教員や他の事務部門と
直接連絡できる体制。

意味のある変化は、「カウンセラーが教員として処遇されたこと」
職員と異なり、教員には上司への報告義務がない。
異動が職員に比べて少なく、学外研修や出張も自由がきく。
長期的な計画を立て、学生の相談に当たれるように。

そんな改革を生かすのは、今も「職員の熱意」。
相談室の前まで来てもノックさえできず、
柱の陰で涙を流す学生が少なくない。
相談室に来られず、医務室に入り浸る学生も。
植村亮介・学生部次長(57)が、その存在に気づき、
高石さんと2人で学長に医務室への養護教諭の配置を求め、
“保健室登校”できるようにしたのは、2年前。

植村さんは、学生に自分の携帯電話の番号を知らせ、
就寝時も必ず枕元に置く。
「1人で教室に行けない」と訴える学生に付き添い、
一緒に授業を受けることも。

学生数は減っているのに、学生相談室の利用件数は上昇傾向で、
昨年度は2009件と過去最多。
こうした状況が同大の特殊事情ではないことを、
高石さんは学外との交流で実感。

親や教師に素直に従い、自我を確立する機会を逸してきた。
何が苦しいのか、どうしたいかを言葉にできず、リストカットや摂食障害、
他人を傷つけるなどでしか表現できない学生が目立つ。
「だからこそ、大学を挙げての『育て直し』が必要」

部署横断の会議を毎月開き、全体の状況を把握する。
学生の相談を受けた教職員に、個別に助言するコーナーを
学内ウェブに設ける……。
巣立ちを控えた学生たちの「育て直し」にかける思いが、
次々に放つ新たな一手を後押しする。

◆カウンセラー

悩みやトラブルを抱える人の相談に応じ、助言を与える専門家。
就職活動や進路決定の相談に応じるキャリアカウンセラーや、
心のケアに当たる心理カウンセラーなど、多様な職種があるが、
国家資格ではない。
心理カウンセラーと称される臨床心理士は、
日本臨床心理士資格認定協会の認定資格。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090602-OYT8T00230.htm

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