2009年6月19日金曜日

ガリレオと太陽電池のめぐりあい

(日経 2009-06-12)

今年は、イタリアの科学者ガリレオ・ガリレイが世界で初めて
望遠鏡で宇宙を見上げてから400年目、
国際天文学連合は、「世界天文年」と名づけた。

美しい星空を眺めると、気持ちが落ち着いたり、
宇宙人がいるのではないかと夢が膨らんだりする。
「地球環境が大変だという時に、宇宙ばかり眺めていられる
天文学者はいいよね」などと、うらやむ人も。

それは大きな誤解だ。
CO2が減らない排出量取引に熱をあげる人たちに比べれば、
天文学者は真剣に地球環境について考えている。

3月22日、標高5640メートルの南米チリ・アタカマ砂漠高地の
チャナントール山山頂で、東京大学が建設した赤外線望遠鏡が、
初めてとなる星の光「ファーストライト」をとらえた。
望遠鏡の設置場所として世界で最も高く、
宇宙に最も近い場所での宇宙観測が始まった。

このプロジェクト「東京大学アタカマ天文台(TAO)計画」は、
東大の吉井譲教授が中心、1997年から10年以上かけて準備。
取り組むのは、宇宙観測だけではない。
地球環境の改善に貢献するため、TAOの名称に「太陽光利用」(Solar)
を加えた「SolarTAOプロジェクト」を今年始めた。

これまでの大型天体望遠鏡は、すべて石油を燃料とした
ディーゼル発電を電源。
TAOは、世界で初めて太陽電池でつくる電気を使う。

標高2500メートルに置く太陽電池から、50キロメートル離れた
標高5640メートルの望遠鏡まで、液体窒素で冷やし電気を無駄なく流す
「高温超電導直流送電」ケーブルでつなぐ。
「初めからすべて高温超電導ケーブルにするのはハードルが高いが、
銅ケーブルでの代用部分も合わせて、13年末までに
太陽電池から望遠鏡まで送電できるようにしたい」(吉井教授)

三洋電機の桑野幸徳元社長は、20年以上前に世界の何カ所かに
太陽電池を設置し、互いを高温超電導ケーブルでつないで
電気を融通しあう「GENESIS計画」を考案。
SolarTAOプロジェクトは、その計画を実現に近づけるきっかけ。
高温超電導直流送電研究の第一人者である
中部大学の山口作太郎教授と先端技術開発ベンチャーの
ナノオプトニクス・エナジー(京都市、藤原洋社長)が協力。

SolarTAOプロジェクトで実施する環境研究は、まだある。
通常、宇宙観測で大気中のCO2は雑音になる。
SolarTAOプロジェクトでは、これを逆に利用し、CO2濃度を測定。

プロジェクトは天文学者の吉井教授と、超電導や太陽電池に詳しい
下山淳一准教授が中心になって進める。
東大で具体的な内容を相談する会合は、今年1月から既に10回以上。
関心をよせる大手のメーカー10社ほどがオブザーバーとして参加し、
ビジネスの機会を待っている。

太陽電池は、サンペドロ・デ・アタカマ市の約1キロメートル東に設置。
設置面積は数万平方メートルで、発電能力は20メガワット級。
ここでつくる電気は、市を経由して望遠鏡に送られる。
実際に発電できるのは4メガワットで、3メガワットを市に送り、
残り1メガワットを望遠鏡で使う。

太陽電池でつくる電気を、いったん電池に蓄える案もある。
「『うちの電池が一番。ぜひ使ってほしい』という
企業からの申し出がたくさんある」と、
プロジェクトへの関心の高さに下山准教授はうれしい悲鳴。

地球の周りの大気は汚れる一方。
視力が落ちたからでなく、空気が汚れているから、
だんだん星が見えなくなってきた。
地上からきれいな星空を観測したい天文学者の活動が、
地球環境を改善するプロジェクトに結びついた。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec090610.html

0 件のコメント: