2009年6月15日月曜日

クローズアップ2009:温室ガス削減中期目標 環境派VS経済派、溝深く

(毎日 6月6日)

2020年までの日本の温室効果ガス削減目標(中期目標)の
策定を巡り、環境重視派の斉藤鉄夫環境相と、
経済重視派の与謝野馨財務・金融・経済財政担当相、
二階俊博経済産業相の間で、攻防が激しさを増している。

麻生太郎首相も出席した関係閣僚会合でも、溝は埋まらなかった。
次期衆院選や都議選をにらんだ各党の思惑も絡み、
複雑な対立構図をどう収拾するのか?

中期目標の策定は、将来の地球温暖化による被害を
抑制できるかだけでなく、今後10年間の経済に大きな影響を与える。
政府の検討委員会は議論を進めるため、
90年比4%増(05年比4%減)から25%減(同30%減)まで
六つの選択肢を示した。
「優れた技術で大幅に削減しなければ、日本の将来はない」

斉藤環境相は、持論の「90年比15~25%減(05年比21~30%減)」
を主張。
「技術的に裏打ちのある数字で、産業競争力にも配慮した目標だ」

二階経産相は、「理想論に走って、途方もない数字を国民に
押しつけるのは適当でない」と反論。
与謝野財務相も、「夢のような技術を前提に論ずることはできない」
との立場で、経済への影響を重視する経産、財務両相と、
環境相との間で溝が深まっている。

対立の背景には、都議選や衆院選を控えた各党の思惑がある。
公明党は昨年6月、「90年比25%減」を提言、
党唯一の閣僚ポストである環境相に斉藤氏を送り込んだ。
斉藤環境相の主張を支持する申し入れ書を、政府に提出。
民主党が、数字上は同じ「90年比25%減」を掲げ、
選挙前に環境に熱心な党イメージを定着させたい戦略がにじむ。
自民党は、特定の目標値を掲げることを見送った。

支持団体の日本経団連は、「90年比4%増」を主張し、
労組の一部とも連携して全国紙に意見広告を掲載。
二階経産相は、「産業界、地方住民の声を受け取って
まとめなければいけない」

斉藤環境相は、海外からの排出権購入なども加算することで
日本の削減幅を拡大するよう訴えている。
与謝野財務相は、「現実的な目標を掲げるべきだ」とけん制。

◇首相、国内外見極め判断

麻生首相は、国連の潘基文(バンギムン)事務総長との電話協議で、
中期目標について、「単なる宣言ではなく、経済的にも実行可能である
ことが基本方針だ」

6案のうち、最有力とされるのは「7%減」案。
5月実施の世論調査でも「7%減」との回答が45・4%と最多、
経産省幹部は、「政府内では『7%減が実現可能なぎりぎりの数値』
という共通認識ができつつある」

「7%減」は、比較する基準年を90年から05年に切り替えて
計算し直すと「14%減」
見かけ上の削減幅が膨らみ、EUの目標である
「90年比20%減(05年比14%減)」、
米国の「90年水準(同14%減)」と同じ。

EUでは、全体としての05年の排出量は90年より減った。
90年を基準年にした方が、05年比より削減率が大きくなる計算。
日本や米国の排出量は、90年以降も増加傾向にあり、
仮に20年の排出水準で比較した場合、
05年を基準にした方が削減率は大きくなる。

日本政府は、中期目標の発表でも05年比の数値を前面に出し、
「大幅削減」の演出を試みる。
国連の気候変動枠組み条約事務局にも、各国の情勢に配慮しながら
削減率を比較できるよう、複数の基準年からの削減率を併記する案。

同条約特別作業部会が示した「ポスト京都」のたたき台では、
「90年」を基準にした目標案が目立つ。
ポスト京都の枠組みは、コペンハーゲンで開かれる
同条約第15回締約国会議(COP15)で決まるが、
日本はさらなる上積みを迫られる可能性も。

環境重視派と経済重視派の双方から一定の理解を得ながら、
国際交渉も優位に進めたい--。
麻生首相は、内外の情勢を見極めて中期目標を決定。

◇首相「各家庭、年30万円払うかね」 「25%減案」を否定

麻生太郎首相は、20年までの温室効果ガス削減目標(中期目標)で、
政府の検討委員会が提示した6案のうち、
最も削減率が大きい「90年比25%減」とする案について、
「(各家庭の年間負担額が)30万円超。
各家庭が30万円を払えと言われて今、払うかね」と、
同案は採用しない考えを示した。

首相は、「各家庭がどれだけ負担することになるというのを、
きちんと示すか示さないかはすごく大事。
格好よく数字だけ言っても、それを裏付けるものは
各家庭に負担がかかってくる」
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◇中期目標と長期目標

温室効果ガスの20年までの削減目標。
京都議定書(目標期間08~12年)で、先進国全体に90年比5%減、
日本には6%減を義務付けたが、国際的に約束する
13年以降の目標は未定。
中期目標が、「ポスト京都」枠組み交渉の焦点の一つで、
各国が公表する削減目標や国連での目標設定方法に関する提案が注目。

長期目標は50年ごろまでの削減率で、日本の場合は
「低炭素社会づくり行動計画」(08年7月閣議決定)で掲げた
「50年までに60~80%減」が相当。
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◆ポスト京都議定書合意に向けた国際交渉
 6月1~12日 国連・特別作業部会(独ボン)
 7月8~10日 G8サミット エネルギーと気候に関する
           主要経済国フォーラム(イタリア)
 8月10~14日 国連・非公式会合(独ボン)
 9月28日~10月9日 国連・特別作業部会(バンコク)
10月ごろ     気候変動枠組み条約第15回締約国会議
           (COP15)閣僚級準備会合
11月 2~ 6日 国連・特別作業部会追加会合(スペイン・バルセロナ)
12月 7~18日 COP15(コペンハーゲン)

http://mainichi.jp/select/science/news/20090606ddm003010091000c.html

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