2009年6月19日金曜日

いずこも同じ成熟国の悩み?

(サイエンスポータル 2009年6月10日)

科学技術の問題は、科学技術にとどまらず、
日本人がどう生きていくかということ。
かつて日本の社会、欧米にも心意気というか、人生哲学があった…。

阿部博之・元東北大学総長(前・総合科学技術会議議員)
青少年の理科離れや日本人一般の科学リテラシー低下に対し、
具体的な手が打たれつつある。
しかし、小中学校の理数科の授業時間数増といった
手直しだけで済む話ではなさそう。

足利女児殺害事件のケースはどうか。
えん罪であることを、検察も認めたと受け止められ、
自白重視の現在の捜査、裁判のあり方があらためて問われている。
今回は、DNA鑑定に対する過去の判断の誤りが認められ、
えん罪が辛くも避けられた。

これまで、膨大な数の裁判で成されてきた証拠に対する判断は、
すべて司法以外の世界で通用するものばかりと言えるか。

法曹関係者の科学リテラシーは、心配なうちの一つ。
そんな声を、社会人の科学リテラシー向上活動に取り組もうとしている
あるNPO法人の代表(物理学者)から聞いた。

経済開発協力機構(OECD)の報告書「Top Of The Class」に、
いろいろ気になる指摘。
「OECD諸国では、科学で最上位の成績を収めている
高校生の約40%が、科学関係のキャリアへ進むことに興味がなく、
約45%は科学の勉強を続けたくないと思っている」

これはどういうことか?
科学でよい成績をとっている高校生たちの半分近くが、
科学を職業に生かしたいとまでは思ってなく、
OECD加盟国の多くが、教育でそうしたモチベーションを
与えることに失敗している。

OECDの公表資料には、
「動機付けに欠ける成績上位者は、テストでよい成績をとっても、
科学の授業を面白いと思わず、学校外では科学と接する機会をもたない」、
「科学の成績最上位者の約3分の2は、テレビの科学番組を見たり、
科学関係の記事を読んだりせず、
4分の3以上は科学分野のウェブサイトにアクセスしたり、
科学クラブに入ったりしていない」

若者の理科離れや社会人の科学リテラシー低下の理由は、
学校で理科が不得手でそうなったとは説明できない。
科学を一生懸命勉強しても、自分の人生設計に役立つとは思えない。
科学技術は、社会のありように決定的な役割を果たしていない。
必要だけど、一部の“専門家”に任せれば済む程度のこと。
このように考える成績優良者が少なくない、ということではないか。

科学技術、科学的精神が社会の健全化、安定化、発展に欠かせない
基盤の一つになっている。
こうした現実を理解させることは、簡単な話ではない。
「科学技術の問題というのは、実は科学技術にとどまらないで、
日本人がどう生きていくかということでもある」(阿部博之氏)というのは、
日本に限らず、成熟した国家に突きつけられている
共通の課題ということだろうか。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0906/0906101.html

0 件のコメント: