2009年6月17日水曜日

挑戦のとき/10 国立がんセンター研究所研究員・大木理恵子さん

(毎日 5月19日)

がんとは、正常な細胞が変化し異常な増殖を繰り返す状態で、
その過程が解明されれば、がん化を防ぐ戦略も見えてくる。

大木さんは、どのように細胞が異常になり、がん化するかを
分子レベルで追究。
6年がかりで、がんに関連する3つの遺伝子のp53、Akt、PHLDA3
調べ、がん化のメカニズムを解明。
成果は、米科学誌セルで発表。

p53は、細胞のがん化を防ぐがん抑制遺伝子で、
Aktは、逆に細胞をがん化させるがん遺伝子。
p53が司令塔になって別の遺伝子に命令し、その働きでがん遺伝子を
抑え細胞のがん化を防いでいることは分かっていた。
p53の指示を受けて働く遺伝子の正体は謎。

大木さんらは、がん細胞が死なずに異常に増殖する点に注目。
細胞死を引き起こす遺伝子PHLDA3が、
p53の指示を受け働く遺伝子だと突き止めた。

治療法の実現には、遺伝子を特定するだけでは不十分。
「具体的に、どのようにがん遺伝子を抑えつけているのかが分かれば、
治療法の糸口も分かってくる。
さらにメカニズム解明を続けたい」

父は白血病、母は大腸菌の研究者。
大木さん自身は、大学に入学した当初から
研究者を志していたわけではない。
進路として、芸術やマスコミへの興味が強かったが、
それを覆したのは大学4年の時に偶然、読んだ分子生物学の教科書。

「細胞内の現象は一つの分子から、
すべて論理的に説明できることを知った」
「生物学は暗記科目」と思っていただけに、衝撃的な出合い。
熟慮して、研究者になることを決意。
「研究者は、研究が本当に好きでないとやれない職業。
よく考えて決めるように」と、話していた母は喜んだ。

大学院進学後は週2回、研究室に泊まり込んで実験に熱中し、
今回の成果につながる細胞死や細胞増殖に関係する
遺伝子の研究を重ねた。

後輩の大学院生らと共同研究するようになって、気づいたこと。
任期付きの研究職が増えて、優秀な学生が将来を不安視し、
進路で研究者を選択しない傾向。
女性研究者には、結婚や子育てとの両立に悩む声も多い。
「体力、知力に勝る若い時代こそ、安心して自由に研究できる
環境が必要なのに」と、
次世代を担う研究者への支援強化が大切と訴える。

「一つの遺伝子の機能解明が、がん克服に結びつく。
そんな分子生物学的な研究の重要性と面白さを、
若い研究者と共有して、研究を発展させたい」と、没頭する日々が続く。
==============
◇おおき・りえこ

埼玉県川越市出身。97年、東京大大学院理学系研究科博士課程修了。
02年6月から現職。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090519ddm016040103000c.html

0 件のコメント: