2009年6月20日土曜日

ポスト京都、本当の負担は10倍?

(日経 2009-06-08)

「温暖化対策は、何をやるにしても(国民に)負担を求める」
地球温暖化問題に関する懇談会で、麻生太郎首相は締めくくった。
削減目標を決め、来るべき負担の覚悟を固めるには、
まず今の立ち位置を正確に把握しておく必要。

2020年に向けた温暖化ガス削減の中期目標の論議で、
「1990年比4%増」、「1990年比25%減」など様々な数字が飛び交った。
忘れがちなことに、「ゲタ」と「真水」の話がある。

京都議定書で、日本に課されている削減目標(2008~12年平均)は、
90年比6%減。
2020年の削減目標では、「90年比7%減」案を軸。
表面的な数値から、2つの目標にわずかな差しかないようだ。

京都議定書の6%減には、森林のCO2吸収分や海外から調達する
排出枠分の計5.4%分が算入。
実際に必要なのは、0.6%分の削減努力で、高ゲタをはいているよう。

森林吸収や排出枠を削減量にカウントできるのは、
京都議定書の枠組み内の話。
次期枠組みに、現状のまま引き継がれるかどうかは決まっていない。
「2020年に90年比7%減」という場合、掛け値なしの削減を指し、
森林吸収や排出枠は未確定の「外数」にすぎない。
7%減でも、京都議定書の目標達成に、10倍以上の努力が必要。

中期目標に関する世論調査では、削減目標の選択肢を示す際、
「真水問題」を必ずしも明示していない。
「真水」で7%減を達成するには、一段と強い覚悟が必要。

電気事業連合会と日本鉄鋼連盟は、自らの環境自主行動計画を
達成するため、12年までに2億4900万トンの排出枠を購入する契約。
これは、3.9%分のゲタに相当。

京都議定書の目標達成に必要な実質削減努力とした0.6%分は、
もう排出枠でカバーできる。
90年基準排出量に対し、3.3%増までは手当てができている。
ポスト京都の削減目標が7%減の場合、
現実には「真水で最大10.3%減」というインパクト。

3.3%増まで許容されているという構図は、
日本経団連などが中期目標の選択肢で支持を打ち出した
「90年比4%増」案とほぼ合致。

将来を見据え、「2020年に90年比25%減」など高い削減目標を
掲げねばならないという“must”発想の環境団体や、
「90年比4%増」など現時点で開発が見通せている技術を積み上げて
可能な範囲で対応していこうという“able”思考の企業はもとより、
広く国民合意を形成するには議論の発射台を共有することが大原則。
議論の条件整備が不十分だった感は否めない。

地球の平均気温を何度下げる必要があるかといった「科学の要請」や、
欧米と同等の削減負担にしなければならない「国際公平性」の論議も重要。

現状認識を異にしたまま政府が、削減目標案ごとに示した太陽光発電や
エコカー導入量など、削減努力の想定を目にしても、
「6%減から7%減へ」と思って見る人と、「3%増から7%減へ」と思って
見る人とでは、削減に臨む危機感が違ってくる。

政府は近く中期目標を決定するが、後で「聞いてなかった」という声が
わき上がってこなければよいのだが・・・。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan090604.html

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