2008年6月24日火曜日

[第2部・米国](中)ドーピング 進む厳罰化

(読売 5月29日)

米国の陸上五輪代表選考システムは、明快。
選考会で上位3人に入ればいい。
多様な価値観の渦巻く移民の国。
単純明快な一発勝負の結果は、誰もがすっきり受け入れる。
百メートルは、「誰が最速か」を即決してくれる、最も注目を集めるメーンイベント。

全米陸連のクレイグ・モズバック前CEO(最高経営責任者)は、
「スピードは、米国の文化。広大な国家が機能するには、
情報や物の伝達などすべての面で、スピードは欠かせない。
だから短距離も米国の文化、伝統となった」。

しかし、ドーピング(禁止薬物使用)は、
明快、公平に「最速」を決めるレースをぶち壊しにする。

「我々が望むのは、科学的に確信的にドーピングの事実を見つけ出し、
裁判所などではっきりさせることだ」。
全米陸連のビル・ロー会長は、抜き打ちテストの増強を
米国反ドーピング機関(USADA)に要請していることを明かし、
北京五輪で薬物使用が発覚した場合には、
4年後の五輪には出場させない厳罰方針を採ることも明言。

検査、罰則の増強は緊急課題。
しかし、それだけで霧は晴れるだろうか?
テキサス大のジョン・ホバマン教授は、「検査は改善したが、
その先を行くクスリも生まれる。友人の科学者も、
検査ですべてを解決する希望はないと常々指摘する」。

宇宙センターで知られる土地にある、テキサス州のヒューストン大学。
午前9時、小柄な老人がトラックに現れた。
カール・ルイスを育てたトム・テレツ氏。
75歳のボランティアコーチは、休む間もなくグラウンドを右へ、左へ。
手が空いたのは昼過ぎだった。

「全員がドーピングを疑われる状況では、まずはお金をかけて
検査の精度を上げるしかない」
ドーピング対策について、そう答えると、続けた。
日本人は絶対使わないだろう。恥を知っているから。
米国人はお金のために使う。悲しいね。
ルイスはクスリなしで記録を作り、スポーツ環境は以前より良くなった。
なぜクスリに手を出す必要があるのか」

米短距離界を栄光に導いたストイックなまでに勤勉な老コーチは、
立ちっぱなしで30分以上熱く語り、嘆き、
昼食も取らずに、再びグラウンドへ向かった。

ドーピング問題の根っこに横たわる、ごく少数者のモラルの喪失。
老コーチを嘆かせる心の問題を、解決する方法はあるのか。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080529.htm

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