2008年6月22日日曜日

学生をつくる(5)「社会の力」講座に注ぐ

(読売 6月7日)

学習意欲を維持させるために、大学が社会の力を活用。
講義室には、スクリーンとグランドピアノ。
スクリーン上の男性がピアノを弾き出すと、講義室のピアノの鍵盤が
動き出し、学生ら約100人の歓声が上がった。

8年目を迎える静岡産業大学(静岡県藤枝市)の冠講座は、
県内の企業や自治体などが職員を派遣し、
最新の技術や実務情報を解説する人気講座。
単発ではなく、一つの企業や団体が、半年間、15週を担当。

ヤマハ(浜松市)が受け持つ授業の2回目。
約30キロ離れた工場から、インターネットを使ってピアノを遠隔演奏。
「ここ10年の研究で、時差は10分の1、0・3秒に縮まり、
わずかなスタッフと機材で、数か国同時の演奏会も可能になった」。
講師の説明に学生の目が輝く。

「未来につながるすごいビジネス。自分もいつかやってみたい」と
情報学部2年の松本聖也さん(19)は興奮を隠せない。
大坪檀学長(79)は、「産業界の最先端技術や情報は、
学生にとって格好の教材。学ぶ目的や将来像が明確になる」。

米国ハーバード大とノースカロライナ大で客員研究員を務めた後、
ブリヂストンに入社、米法人の経営責任者も務めた大坪学長は、
2000年の就任以来、「地域に役立つ人材の養成」を掲げ続ける。

就任直後、フリーター化する学生の多さに驚き、
考え抜いた末にたどりついた校是。

日本庭園造りが趣味だったブリヂストンの創業者・石橋正二郎が、
「どんな石や木も、置き方次第で庭を変える力がある」。
「それと一緒。できない学生なんていない。
原石を磨き上げてダイヤにするのが大学の役割」

1年生には少人数制のゼミで、リポートの書き方や語学などの
基礎力を徹底的に培う。名付けて「大化け教育」。
卒業時に向けて学習意欲を維持、向上させる決め手が「社会の力」。
社会人経験のある教員を集め、図書館には地元企業1000社の
社史を置く専用のコーナーを設けた。

目玉の冠講座は「寄付は要らない。情熱を伝えて」と、
学長自ら企業を回って口説いた。
金融機関や県なども快諾し、初年度は5講座で始まった。

講師には、知事や銀行の頭取、プロサッカーチーム「ジュビロ磐田」の
社長ら、県内のそうそうたる顔ぶれが登場。
社会保障、福祉、経済、環境、チーム作りなど、
多彩な話題を実習や校外視察も交えて紹介。
市民に公開されたこともあって話題を呼び、今年は20講座を数える。

この春の同大卒業生の就職率は、96%。
ここ数年、95%を下回ったことはない。
学部での教育には、卒業時を見据えた戦略が欠かせない。
「在学中に卒業後の人生設計をきちんとさせ、フリーターにはさせない」、
かつては遠くに見えた学長らの願いが、現実。

◆冠講座

企業や地方公共団体などからの寄付金をもとに、
学外からの研究者らを招き、企業名などを冠して開設する講座。
中曽根康弘首相時代の臨時教育審議会が、
「民間活力の導入」を提言したのを受け、
文部科学省が1987年に国立大学設置法施行規則を改正、
国立大でも解禁に。米国では100以上の“冠”を抱える大学も珍しくない。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080607-OYT8T00194.htm

0 件のコメント: