2008年6月27日金曜日

[第2部・南アフリカ](上)生活と共に 女子長距離

(読売 6月4日)

サッカー・ワールドカップ(W杯)を2年後に控えた南アフリカ。
スタジアム工事が行われ、交通基盤整備も進む光景を見る限り、
かつて国際スポーツ界から締め出されていたことは想像しにくい。
マシシ南ア五輪委会長は胸を張る。
「将来、五輪招致に手を挙げるかは未定だが、
2010年の成否は大きなカギを握るね」

南アの歴史と白人・非白人を区別するアパルトヘイト(人種隔離政策)
切り離せない。1994年に完全撤廃されたが、
この制度は南アが国際社会から孤立する原因。
国際舞台で競争力を磨くことが不可欠なスポーツ界への
ダメージは小さくなかった。
そんな状況で、南アスポーツを牽引してきたのが、女子長距離

五輪の女子長距離は、三千メートルとマラソンが1984年から、
一万メートルが88年から採用されるなど、比較的歴史は浅い。
南アでは、さほど注目されていない時代から人気を誇った。
温暖な気候に加え、ランニングに最適の起伏に富んだ地形。
子供のころから野山を駆け回り、自然と鍛えられる環境。
記録やメダルといった競技色より、生活や趣味として結びついていた。

そんな生活を送り、世界トップにまで上り詰めたのがエレナ・マイヤー
南アが32年ぶりに復帰した92年バルセロナ五輪の
女子一万メートル銀メダリスト。
ケープタウン郊外の閑静な町で育ったマイヤーは、懐かしそうに振り返る。
「私は、恥ずかしがり屋で気の小さい女の子だったけど、
走るのだけは好きだった。ランニングが自信を与えてくれた

今年42歳になるマイヤーは昨年、念願の子宝に恵まれた。
長男の育児に忙しいが、走るのをやめたわけではない。
「乳母車は走って押すの。周りは驚くけど」と笑う。
子育ての一方、子供を対象にしたランニング学校の経営にも携わる。
1日1キロずつ42日間走って、「マラソンを完走する」ことで
スポーツの楽しさや目標を達成する喜びを学ぶ。
子供の非行を防ぎ、教育に役立てるのが狙い。

充実した生活を送るマイヤーだが、
南アスポーツ界の現状には、表情が厳しくなる。
この国では、スポーツへの政治的な関与は避けられなかった。
今も間違った人が間違った理由、やり方で進めるから、
今は強い選手が出ない」と痛烈に批判。

かつてその荒波に翻弄された一人の選手がいた。
「裸足の天才少女」と呼ばれたゾーラ・バッド
近年、公の場に一切姿を見せなかったバッドが語り始めた。
「私が、あのバッドであることを私の子供は最近まで知らなかった」。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080604.htm

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