2008年6月28日土曜日

学生をつくる(10)「まず疑え」思考力養う

(読売 6月14日)

学生へのアンケートを、新入生向けの教材にする授業がある。
国際基督教大学(ICU)で、1年生21人が、
手にした紙を食い入るように見つめていた。

13の設問が、日本語と英語で書かれた
同大の授業評価アンケートの用紙。
「授業の評価とはどういうことか、話し合って」。
渡辺敦子講師(46)が英語で指示を出すと、学生も英語で
「教師のランク付け」、「学生の心情をぶつける」と、次々に口を開いた。

ICUの1年生には、必修の英語が週8コマあり、英語を通した
「批判的思考力」の育成も目的。
授業評価のアンケートも、その教材の一つ。
「なぜ学生に評価の権利があるか」、「評価する学生の義務は?」。
渡辺さんが質問を重ねるうち、学生の表情に真剣さが増した。

ICUは、1953年の開学以来、批判的思考力の育成を掲げてきた。
「学びは自分でつかむもの。それには、批判的思考力は不可欠だと、
1年次で気づいてほしい」。
10年前からICUの英語教育に携わってきた富山真知子教授(55)が強調。
批判的思考力とは、「情報や知識を客観的、論理的に分析し、
評価する能力」(富山さん)。大切なのは、吟味する過程。

入試を経たばかりの学生は、権威に弱い傾向があり、
「辞書に出ている」、「著名な学者が書いている」というだけで満足。
詰め込んだ知識の内容の吟味に踏み込む必要がなかった。
英語を介することは、日本流のあいまいな会話や考え方にも
疑問を持ってほしい。

授業を通して、教員は「うのみにするな」、「まず疑え」と繰り返す。
だからこそ、授業評価アンケートも格好の教材に。
大学のすることだからと、無批判に受け止めるのではなく、
なぜこういうことをするのか、評価する自分自身はどう学んでいるのか、
客観的に考えることを期待。

OECD(経済協力開発機構)が、各国の大学4年生の力を測り、
比べる指標の一つに批判的思考力を打ち出したことを機に、
最近、同大の授業方法への問い合わせが増えている。
かつてなかったことだけに、
「日本の大学が変わりつつある」と富山さんは実感。

批判的思考力は、専門課程でさらに磨きをかける。
2年以上を対象にした「神学宗教学特別研究」の森本あんり教授(51)は
少人数クラスで、英語の哲学書の精読と、学生同士の討論を繰り返す。
批判的思考力を、「自分の眼鏡を外し、その眼鏡を点検する」
かみ砕いて説いたうえで、
「4年では完成しない。だが必ずあとで生きる」。

社会に出て役立つ力を蓄える最後の学びの場。
その責任は重く、いま厳しく質が問われている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080614-OYT8T00255.htm

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