2008年6月22日日曜日

[第2部・米国](上)短距離王国包む深い闇

(読売 5月26日)

4月というのに、日差しが痛いテキサス州立大。
リレー種目中心の競技会「テキサス・リレー」には、
陸上王国らしく約2万人が集まった。
そこに現れたのが、昨年の大阪世界陸上で百メートルなど
3冠の王者タイソン・ゲイ。
シーズンインの足慣らしに2種目のリレーをこなすと、記者に囲まれた。

「コーチが、ドーピング(禁止薬物使用)と関係ない自信はあるか」、
「もちろん。大学時代からの長い付き合いだし、一緒に練習してればわかる」
五輪の年。そのメーンイベント男子百メートルの英雄候補と、
そんなやりとりが始まる。
澄んだテキサスの空とは対照的な深い闇に、米国短距離界は包まれている。

今年1月。2000年のシドニー五輪で、女子短距離3冠を獲得して
ヒロインとなったマリオン・ジョーンズが、ドーピングなどに関する
偽証罪などで、禁固6か月の実刑判決。

06年にアテネ五輪金メダルのジャスティン・ガトリン、
05年に元男子百メートル世界記録保持者のティム・モンゴメリ、
04年には03年世界陸上女子短距離2冠のケリー・ホワイトの
ドーピングが、次々発覚。

「メディアや陸上関係のウェブサイトなどで、僕も薬物を使ってるという
話が飛び交う。そんな環境になってしまったのが悔しい」
ゲイの嘆きは、米国選手すべての思い。

「世界一速い男」を決める百メートルは、米国五輪史の中心。
1896年第1回アテネ大会を、クラウチングスタートを持ち込んだ
トーマス・バークが制すと、1936年ベルリン大会では人種差別政策を
行ったヒトラーの前で、黒人選手ジェシー・オーエンスが4冠を達成、
2004年アテネ大会まで24大会で16勝。

五輪史の分岐点にもなったのが、東西冷戦下でのボイコット合戦となった
84年ロス大会のカール・ルイスの登場。
4冠を果たし、商業主義にカジを切った地元五輪を盛り上げて
五輪の商業化を一気に加速させ、五輪選手のプロ化の源流に。

しかし、この革新の光が暗黒の源になったとの指摘。
テキサス州立大のジョン・ホバマン教授は、
「五輪はお金になる、と示したのがロス大会であり、カールだった。
お金が稼げる、というオリンピックドリームで、五輪は崩壊しかけている」

米国からスタートした商業化。
米国のスターが築き上げた、富を手にするシステム。
その輝きに、目がくらんだ者たちが選んだドーピングという不正手段によって、
米国が苦しんでいる皮肉は偶然だろうか。

僕らに課せられた役割は、暗闇を明るくすること。
北京五輪では、アンチ・ドーピングの強い意志を持って活躍し、
子供たちに夢を与えなければならない」
ゲイは、それを宿命と受け止め、光を求める。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080526.htm

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