2008年6月26日木曜日

学生をつくる(8)「遊び」が「学び」の教科書

(読売 6月12日)

キャンパス内での「遊び」を、「学び」につなげる取り組みがある
竹やぶのあちこちに、顔をのぞかせたタケノコを見つけ、
軍手にジャージー姿の大学生20人が歓声を上げた。

日本福祉大学美浜キャンパス(愛知県美浜町)の一角。
クワとスコップで周りを掘り、手で土をかきわけて引っ張り出したのは
長さ約60センチ。
「初めてとは思えない腕前だね」と社会福祉学部の平野征人教授(63)が
学生たちの肩をたたき、顔をほころばせた。

同大は、6学部の新入生約1200人を入学直後、
20人前後のゼミに入れ、自ら学ぶ習慣や討論・発表の仕方、
幅広い教養、コミュニケーション能力などを2年かけて学ばせる。
そのゼミで、平野さんは「遊び」を重視。
「遊びには、学生を育てるあらゆる要素が入っている」。
タケノコ掘りもその一環。

4年前、愛知県立高校の教頭を最後に定年退職、
同大の教壇に立った時、平野さんは、大学入試ばかり意識して
生徒に向かってきたことを反省させられた。
与えられた問題は解けても、
自分で問題を見つけて考え続ける姿勢が乏しい、
人との間合いがつかめないため議論が難しい、
そんな学生が目の前にいたからだ。

実践的知識や体験、人とのかかわり方など、
社会に出て必要な力を身に付けさせたいと思いを巡らせるうち、
「遊び」に行き着いた。

手軽で、楽しくなければ、今の学生は飛びつかない。
夏は竹を切り割ってそうめん流し、秋はキノコ狩りやアケビ採り。
自然に恵まれたキャンパスならできる。

3年目となるタケノコ掘りでは、驚かされることも多い。
道具持参でと指示すると、ハサミを手に現れた学生もいる。
タケノコは、枝にぶら下がっていると思ったようだ。
そんな学生たちが、掘り方や料理法だけでなく、
竹の根が治山・治水に役立った歴史や里山の現状まで学んでいく。

学生同士の交流も深まる。
社会福祉学科2年の生田卓也さん(19)は、
「互いの名前もわからず、不安だったが、
一緒に掘ることでつながりを実感できた」。
小学校の教員志望。
いつか子供たちにも体験させたいと意欲を燃やす。

こうした「遊び」は、キャンパスに広がり始めている。
発信元は、斎藤真左樹・教育開発担当部長(46)が
学内ウェブに書く「自給自足さんの日記」。
15年前からキャンパス内を歩き回り、果物や山菜など、旬の味を発見、
数年前からウェブで収穫時期や今年の出来具合、料理方法などを紹介。

斎藤さんが、タケノコ掘りをビデオ撮影してウェブで流すと、
直接案内を求める教員が増えた。
実は、平野さん自身、元は斎藤さんの「日記」から着想を得ていた。

2人の思いは同じだ。
「おいしいキャンパスを、生き生きとした学びの栄養にしてほしい」
地方ならではの手法が、竹のように根を張りそうだ。

◆コミュニケーション力習得と大学生

日本能率協会(東京)が今春入社した984人に、
大学生時代、どんな知識や能力の習得に力を入れたか尋ねたところ、
「専門知識」(40%)、「コミュニケーション能力」(33%)や
「発表能力」(24%)が挙がった。
「英語等の語学力」、「文学、歴史、哲学等の一般的な教養」は15%。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080612-OYT8T00230.htm

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