2008年6月27日金曜日

生きる価値はどこに 工場解雇の末、樹海へ 緊急連載企画「命つなぐために-自殺大国ニッポンのいま」5回続きの(1)

(共同通信社 2008年6月25日)

凍傷で小指を失った右足が今もうずく。病気、解雇、借金...。
あり地獄の底に落ちたかのような絶望から自殺を決意し、
富士山のふもとに広がる冬の青木ケ原樹海をさまよい歩いた。
生還後も仕事がなく、先の見えない日々が続く。
「まだ、樹海の中にいるようなものかな」。
愛知県出身の大沢忠雄さん(45)=仮名=はそうつぶやいた。

心筋梗塞で倒れたのは3年前。
命は取り留めたが、不整脈のため軽勤務しかできなくなった。
昨年6月、約12年間勤めた工場を解雇され、社宅も追い出された。
車などで寝泊まりしながらハローワークに通ったが、
病気と分かると相手にされない。
生活が荒れ、消費者金融に手を出した。
借金は150万円余りに膨らみ、追い詰められた。

「おれなんか、生きている価値もないのかな」。
11月、手元の30万円のうち20万円を、離れて暮らす70代の母に送り、
生まれ故郷に寄ってから樹海に向かった。

所持品は、ロープにカッターナイフ、焼酎のボトルと少しの食料。
携帯電話は土中に埋めた。
日が沈むと、氷点下になる樹海で手首を切り、震えながら斜面に横たわった。
「頭はからっぽ。『このまま静かに逝きたい』とだけ考えていた」

死に切れず、2週間。
樹海で倒れているところを地元の警察に保護。
「人間そんなに簡単には死ねないよ。とにかくここへ行きなさい」。
署員から電車賃を渡され、
「全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会」(東京)に駆け込んだ。

約5カ月入院し、現在は民間の保護施設で暮らす。
生活保護は受けられるようになったが、借金を抱え、
仕事がない現実は変わらない。
「生きていてよかった、とはまだ言えない。
体調は不安だけど、無理してでも働いて、ここから脱出することが当面の目標」

全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会で事務局次長を務める
吉田豊樹さん(35)にも、自殺未遂の経験がある。

ヤミ金融からの借金が一時約3000万円に上り、
取り立てを苦に首をつったが、意識を失う前にベルトが切れた。
テレビで協議会を知り、相談。利息の過払い分を一部取り戻すことができた。

「借金の解決は必ずできます!」。
協議会は、青木ケ原樹海に自殺防止を呼び掛ける看板を設置。
これまで、33人が看板を見て相談の電話をかけてきた。
いずれも自殺を思いとどまった。

「借金で死ぬ必要はない」と吉田さん。
「まずは、身近な相談窓口が大切。ただ、借金の問題だけでなく、
自立支援など包括的な施策が必要」。

昨年1年間に国内で自殺した人は、約3万3000人。
1998年以来10年連続で3万人超。
生きやすい社会とは何か?
命をつなぐ手だてを模索する各地の動きを報告。

※経済生活問題での自殺 

2007年に経済生活問題で自殺した人は7318人、
健康問題に次いで2番目に多い。
「多重債務」は、1973人で約90%が男性。
「借金の取り立て苦」、「自殺による保険金支給」が原因や動機と
みられる人も計320人。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=76280

0 件のコメント: