2008年6月25日水曜日

[第2部・米国](下)「薬物ダメ」選手から発信

(読売 6月2日)

ごく少数の、しかし、世界的トップ選手の薬物汚染で、
内外から不審の目にさらされる短距離王国・米国。
クリーンなアスリートにとっては、「風評被害」が広まる中、
反ドーピング(禁止薬物使用)の声は、選手側からも高まっている。

テネシー大体育館。
昨年の全米四百メートル女王のディーディー・トロッター(25)は、
練習後の着替えの時間も惜しんで語り始めた。
「ドーピングスキャンダルで、みんなが疑われている。
だけど、自分は違うと世間に発信したかったの」

昨年2月、独自の反ドーピング運動を始めた。
母と二人でNPO法人を設立。
1万1000ドル(約114万円)を投じて、白地に赤で
「TEST ME, I’M CLEAN」と記したリストバンドを作った。
2ドルでネット販売し、大会などでは無料配布。
既に約15か国から購入。
昨冬からは各地の高校などへ講演に出かけ、幅広い世代に、
薬物の危険性、誠実に生きることを訴える。

「薬物を使わないことは、人間として誠実に生きる証し。
最初は自分を守るためだったけど、このプログラムは一生続けたい」。
あふれる思いは2時間以上、途切れることなく続いた。

自分は自然そのまま、クリーンな身だ。
そんな意味のタトゥーを昨季前、腕に刻んだのは、
2005年ヘルシンキ世界陸上男子二百メートルで銀、
昨年の大阪世界陸上では銅のウォラス・スピアモン(23)。
トップ選手だった頑固一徹な父から
「ズルはするな。ハードな練習で正しい道を進め」とたたき込まれ、
アルコールはもちろん、カフェインも避けるためにコーヒーも飲まない。

「簡単にとれないタトゥーは、100%の覚悟の意味。
僕はクリーンだと示す重要なアクションだった」

パームツリー並木が迎えるロサンゼルス。
24年前の五輪で、カール・ルイスが4冠に輝き、五輪の商業化、選手のプロ化を
加速させた地で、米国陸上関係者の多くが反ドーピングの象徴として
名を挙げるアリソン・フェリックス(22)は、練習に励んでいた。

カモシカのような細い手足で、大阪世界陸上女子短距離3冠。
父と祖父が牧師の、信仰深い彼女は言う。

今の時代に生まれたのも、神様が与えた使命。
北京では、人間らしい側面を見せてメダルを取れない可能性もあるけど、
それも自然の結果。
でも私は、科学の力に頼らず、自然な力で成功できると訴えたい」

米短距離界始まって以来の暗闇の時代、
胸の中に熱い思いを抱える「新世代」と呼ばれる選手たちがいる。
8月の北京で、彼らの輝きが、闇を振り払うか。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080602.htm

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