2008年6月24日火曜日

博士はあまっていない?

(サイエンスポータル 2008年6月9日)

ポスドク問題は、いろいろな場で論じられ、
「これは、若者から見れば一種の詐欺行為」
(吉川弘之・産業技術総合研究所理事長)という声も。

日本物理学会キャリア支援センター長、坂東昌子・愛知大学名誉教授の
基本的な考えは、「若い人たちだけの問題ではなく、
日本の将来、科学技術で身を立てていこうとしている
日本の将来にかかわる大問題」。

博士を採用しないと自分たちが困ることになる、
という危機意識が産業界には薄い。
こうした企業に対し、姿勢転換を求める声も。
「世界中どこへ行っても、研究開発の現場では博士が活躍。
日本だけが違う。
相変わらずキャッチアップ型なら、修士で足りる。
本当に最先端を走るなら、博士中心にならなければ駄目。
日本企業は、本当に技術開発をする気があるのか、
本当に将来を読んでいるのか」。

企業の姿勢が変わるのをじっと待っていればよい、という問題ではない。
府川伊三郎・日本化学会理事が、日本化学会が進めている
博士卒人材の企業就職支援策について紹介。
博士がイノベーションの中心を担っている世界の現状に対し、
日本の化学企業は修士が中心。博士卒の採用率は、5-10%。

例外は製薬業界で、博士卒の採用比率が高く、30~70%。
理由は、製薬メーカーは専門を生かしやすいこと、
グローバル展開により、海外で臨床検査にかかわる機会が増えたこと。
海外では、修士はテクニシャン扱いでしかない。

化学メーカーには、扱うテーマが変わっても、
ゼロから対応できる能力が要求され、博士号の専門を生かしにくい。
長年、修士が研究開発の中心として頑張ってきたという自負から、
博士の採用増への反発も社員の中に見られる。

日本化学会は、「博士課程在学生のための短期集中的インターンシップ」、
「拡大博士セミナー―博士のためのセミナーと就職相談会」を開催。

産学協調の催しが実現したのは、
「博士の人材育成に関する提言」という野依フォーラムが、
経団連などに出した文書がきっかけ。
野依フォーラムは、野依良治・名古屋大学教授がノーベル化学賞受賞を機に
野依氏を囲む化学・製薬企業20数社をメンバーとする集まり。

日本物理学会キャリア支援センターの試みで、成果が上がった例に、
物理医学士がある。
物理学と医学という異なる専門知識を要する
新しい職種への物理学博士の参入。
日本物理学会が実施するシンポジウムや特別企画による支援策で、
物理医学士の道を歩み始めた物理博士は10名超。
もともとあったニーズに、学会側の積極的な取り組みがうまくかみ合った。

井村裕夫・先端医療振興財団理事長は、
「PET(ポジトロン断層法)が注目されているが、
画像を読める専門医がものすごく不足している」。
医療の進歩に、人材育成がついて行けない。
医療の分野では、さらに統計学者ももっと必要。

国際的に遅れ、深刻視される臨床研究には、
統計学の分かる人材が不可欠。
高度な専門知識と、新たな分野への挑戦意欲を持つ人材が必要なのに、
人材養成が追いついていない。

こんな領域は、医療以外にもある。
こうした分野、職種にこそ、博士が積極的に飛び込むことが期待。
ポスドク問題には、活躍すべき分野にポスドクが行っていないという面も。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0806/0806091.html

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