2009年6月30日火曜日

枯れた技術が有機ELで花開く

(日経 2009-06-16)

超薄型テレビのディスプレーとして注目を集める
有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルだが、
高価格がネックのテレビよりも、照明市場向けの需要が
一足先に開花しそうだ。

低消費電力で明るく、紫外線を出さないことが評価され、
環境対応製品への関心が高い欧州などで普及する可能性が高まってきた。
照明に最適な白色有機ELの量産競争で、大手メーカーを尻目に
先頭を走っているのが、操業開始して3年目の無名ベンチャー。
強さの秘密は、枯れた技術の徹底活用。

青森県六ケ所村に工場を構える東北デバイス
(花巻市、相馬平和社長)。
親会社の電子部品製造、エーエムエス(青森県中泊町)の
古川岩雄会長は、「働く場がなく、出稼ぎに行くしかない青森の人に
雇用の場を作るため、会社の体力があるうちに成長市場に挑み、
夢を実現したかった」

先端技術コンサルティング会社の技術指導とファンドの資金支援を受け、
白色有機EL開発部門を2005年、社外に切り出し、ベンチャーとして自立。
照明向けの白色有機ELを新規事業に選んだのは、
鮮明なカラー画像が求められ、量産が難しいテレビ用途より
性能要求のハードルが幾分低い白色の方が、
中小でも参入チャンスがあると見抜いた。

省エネ・環境対応型の照明市場で先行したLED(発光ダイオード)に対し、
白色有機ELは価格競争では負けるが、低温動作でパネル面全体が
発光する点や応答速度の早さで優位に立つ。

今後の需要拡大を期待して、パナソニック電工やNECライティング、
ロームなど大手や有機EL研究で有名な山形大学の城戸淳二教授が
指導する有機エレクトロニクス研究所(米沢市)など、
参入が相次ぐ見通し。

今後の競争激化は必至だが、実用化の目安である1万時間超の
寿命の製品を量産しているのは現在、東北デバイスだけ。
六ケ所村の工場は06年4月、世界初の量産工場として稼働。
昨年、約20億円を投じた第2号ラインも稼働、
2インチパネル換算で月100万枚量産できる。

大手に先駆けて量産を軌道に乗せることができた要因は、
「枯れた技術の水平思考」という製造哲学。
同社の赤星治副社長が、「ローテクの積み重ね」と明かすように、
先端技術と装置をはなから使う気がない。
従業員75人のうち、15人が大手半導体メーカーからの転身組で占め、
半導体工場でよく使われる膜封止、真空蒸着といった
既存の製造技術の活用にとことんこだわる。

赤星氏は、「月産100万枚の生産設備を大手が作ると、
100億円以上かかる」
投資額が大手の5分の1程度で済んだのは、
「有機ELから撤退した三洋電機関係会社から、装置を安く購入し、
旧世代の小型ガラス基板を使って、作業者が手で持ち運ぶようにして
高価な自動搬送装置の導入を最小限にとどめたり、
独自のケチケチ作戦を徹底追求した」

大手は、発光源の有機EL材料を2枚のガラス基板に挟む手法が
一般的だが、東北デバイスは膜封止を採用。
発光材料を薄膜でとじ込めるので、乾燥剤が不要になり、
従来1ミリメートルを超えていたパネルの厚さは0.3ミリメートルまで薄く、
材料コストも節約できた。

中小が大手に勝つ絶対条件のコストダウンは、妥協を許さない。
巨額の資金と人材を投じて最先端技術の開発に執着するが、
技術が先端過ぎて量産に手こずる大手の戦略に対する痛烈な皮肉。

同社は、これまで携帯電話のバックライトや照明大手のOEM
(相手先ブランドによる生産)供給など、特定顧客との取引が主体、
今年4月から一般企業からも受注することを決め、
エレクトロニクス商社4社と代理店契約。
顧客獲得競争で先手を打つ狙いだが、「安く作るノウハウの蓄積で
歩留まりは90%を達成、大手との競争に勝つ自信はある」(赤星氏)。

大手の参入といった試練はこれからだが、東北デバイスの
枯れた技術の水平思考戦略は、中小・ベンチャー企業が
モノ作りで生き残る1つのヒントに。

中国や韓国など、アジア勢の追い上げを受ける半導体、液晶、
プラズマなど先端技術分野だけでなく、自動車関連でも
日本メーカーの事業撤退や工場閉鎖が相次ぎ、日本列島至るところに
まだ十分使える製造装置がエンジニア付きであふれている。

ローテクでも、新たな使い道を探せば、おカネと時間を節約して
成長市場に参入できるのに、この好機にチャレンジする起業家が
なかなか現れない。
資金面や市場開拓に不安があって、ぐずぐずしているうちに、
アジアのベンチャーに宝の山をそっくり持ち去られてしまう。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon090605.html

0 件のコメント: