(読売 6月17日)
宇宙や天文にかかわる指導者の不足が悩みのタネ。
成蹊高校の校舎屋上にある天体観測ドーム。
中には、巨大な望遠鏡(口径15センチ)が据え付けられている。
宮下敦教諭(49)が、同校天文気象部の新入部員を案内。
「誰か、この機械で望遠鏡を動かしてみて」
宮下教諭の呼びかけに、生徒がおそるおそるボタンを押すと、
電動式の望遠鏡がゆっくり天空に向きを変えた。
新入部員の1年、藤居萌さん(16)は、
「こんな望遠鏡を見たのは初めて。これで観測できるなんて幸せ」
同部の活動は盛んだ。
学校に泊まっての観測会が毎学期1回、
夏には福島県で観測合宿も行う。
7月、トカラ列島などで出現する「皆既日食」の観測ツアーも計画中。
「望遠鏡も本物。観測する天体も本物。
本物が、生徒の好奇心を刺激する」と宮下教諭。
「今は宇宙や天文に熟知した教員が不足していて、
こうした活動もなかなか進まない」
高校教育で、宇宙・天文分野をカバーする
「地学」の教員の減少が顕著に進んでいる。
東京都内の公立高校。
昨年度は201校中、地学教員は49人で、4校に1人の割合。
物理や化学、生物の180~260人に比べ、圧倒的に少ない。
地学教員の新規採用枠は、全国あわせても10人前後の状態が、
ここ十数年続いている。
約20年前に行った高校調査では、約75%の学校に望遠鏡があった。
高額な備品のため、現在も各校に残っていると思われるが、
地学教員が少ないうえ、天体望遠鏡に習熟する余裕がないため、
十分に活用されているとは考えにくい。
地学の授業がある高校も、当然のように少ない。
高校理科は、「物理1」、「化学1」、「生物1」、「地学1」から1科目を選択。
文部科学省の2004年全国調査では、高校2年の普通科で
「地学1」を開設しているのは30%。
「物理1」は83%、「化学1」は71%で、地学の低迷が著しい。
その一因として、宇宙や天文、地質などのコースを設ける大学が
少なくなったことなどが指摘。
天文観測所などの大規模施設の整備や、地質研究では欠かせない
野外調査は、高額の予算がかかることなどが原因。
都立若葉総合高校地学教諭でもある首都大学東京の
田村糸子客員研究員は、「地学が大学入試科目として軽視。
授業が削られ、教師も減る悪循環に陥っている」
「宇宙が誕生し、地球が生まれ、その地球の構造を理解し、
未来をも予測する。地学は、いわば『歴史科学』。
大きな視点で物事を見る力を養ううえで、とても大切な科目」
大学受験という目先の目標にとらわれては、
科学の本質はつかめない。
◆皆既日食
太陽の前を横切る月が、太陽を完全に隠してしまう天文現象。
空は夕方や明け方の薄明中のように暗くなり、
普段は見られない太陽のコロナが現れる。
日本では今年7月22日、トカラ列島、屋久島、種子島・奄美大島の
一部で観測できる。
日本での観測は1963年7月以来、46年ぶり。
今回を逃すと、2035年9月まで日本で観測できない。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090617-OYT8T00243.htm
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