2009年7月4日土曜日

「公差」、知られざる競争力の源泉

(日経 2009-06-23)

日本メーカーの製品がコピーされ、海外市場などで安値で
販売されてしまう模倣品問題が、依然として猛威。
その対策として、「公差」に注目しはじめた企業がある。
半導体製造装置メーカーのアスリートFA(諏訪市)。

同社は、長く模倣品に悩まされた末、公差設計をきちんと
実施することが解決への糸口であることを見つけ出した。

公差とは、製品や部品を製作する際の許容誤差。
設計寸法は理論値なので、実際の製作物の寸法はどうしても少しズレる。
これをあらかじめ考慮し、たとえズレてもきちんと組み立てることができ、
かつ機能を発揮できる範囲を公差として設定。

部品の公差を厳しくすればするほど、製品の組み立て工程でも
使用時にも、問題は発生しにくくなる。
しかし、それでは部品の製造コストが高くなりすぎる。
問題を起こすことなく、できるだけコストを下げるという、
高度なバランスが求められ、公差の設定は非常に重要。

これが、どうして模倣品の対策に有効なのか?
模倣品メーカーは通常、正規品を1個買ってきてバラし、
部品の寸法などを測ってコピーする。
しかし、これでは公差は絶対に分からない。
主要部品について適当に公差を決めてみても、
公差が緩ければ装置が正しく動作しないし、逆に厳しすぎれば
正規品並みの価格になってしまう。

正規品を大量に購入し、部品の寸法を片っ端から測定すれば、
統計的に公差を求めることはできる。
しかし、模倣品メーカーにとって割が合わなくなる。

アスリートFAも以前は、公差設計をおざなりに。
その代わり、装置の中で問題を起こしそうな場所には、
微調整機構を設けておくことで、現場で精度不足を補える。
この機構に、模倣品メーカーも大喜び。
大まかに造っても、なんとか動くようにできるからだ。

そこでアスリートFAは、公差設計にまじめに取り組み、
新製品では微調整機構を廃止した。

このように公差は、本来は設計上の重要な要素だが、
多くの企業では大切にされていない。
過去の図面と似たような公差を、何も考えずに
新しい図面に単純に当てはめるだけ。
設計や製造ほかの関係者が一堂に会して、
設計案を検討する設計審査(デザインレビュー)の席でも、
重要部品の公差が具体的な案として討議の対象になることはまずない。

製品の技術も、製造技術も進化していくのに、
公差を改めて検討することなく同じ値にしているのでは、
本来高められるはずの精度が高められない。
つまり、商品力を高める余地があるのに、それを生かしていない。

逆に、厳しすぎる公差を放置したままでいると、
製造部門が大変な苦労をし、余計なコストをかけて実現している可能性も。
特に、日本国内の製造部門は優秀なので、
図面で厳しい公差を指定されると、「なにくそ」と、理由や背景を問わず、
プライドをかけて実現してしまう場合。
工数やコストが最適になるはずがない。

海外では、寸法だけでなく、「平行」、「垂直」、「平坦さ」といった
図形的性質に対して公差を設ける「幾何公差」の活用が進んでいる。
寸法公差だけを使う場合に比べ、あいまいさのない公差設定ができる。
幾何公差の指示通りにものを造れる海外の工場に
仕事を依頼する場合は、日本企業の設計技術者も
幾何公差で、適切な指定ができなければならない。

日本国内では、幾何公差の普及も遅れている。
環境性能の向上、有害物質対策など、メーカーが検討するべき
事柄は増える一方。
製品を設計して製造する上で、もっとも基礎となる公差が
おざなりになっているとすれば、何のための商品力向上なのか。

公差設計のコンサルタントを務めるプラーナー(長野県下諏訪町)の
栗山弘氏によると、「ここ2年くらいは、国内でも公差について
学び直そうという企業が増え始めている」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon090622.html

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