2009年7月2日木曜日

星空に学ぶ(5)「月で建築」夢語り合う

(読売 6月16日)

宇宙建築について、大学教授や学生、社会人らが
語り合う会が可能性を広げる。

「月は、物を運ぶのも大変だし土質も複雑、場所によって
環境がかなり違う」、
「月面上のコンクリートはどこから持ってくる」、
「宇宙服が進化すれば、シェルターとしての建築物は不要」

月探査衛星「かぐや」が任務を終えて、月面に落下した6月11日夜、
東京大学工学部、松村・藤田研究室で、
月面基地や軌道上の生活空間の模型を前に、
十数人の男女が熱心なやりとりを繰り広げていた。

2002年に始まった「宇宙建築研究会」。
松村秀一教授(51)(建築工法・建築生産)のもと、
宇宙建築に興味を持つ留学生2人が偶然居合わせたのを
きっかけに集まった「宇宙好き」たちが毎月1回、
宇宙という共通の夢に向けて意見をぶつけ合う。

メンバーは、研究室に所属するトルコ人宇宙飛行士候補の
アニリール・セルカンさん(同大助教)、大学院生のほか、
慶応、東海の両大学の教授、宇宙航空研究開発機構に勤務経験のある
ゼネコン社員、宇宙飛行士インストラクターなど多彩。
各人が、研究テーマや構想を持ち寄って紹介・批判。

研究会が始まる前、宇宙にさほど関心のなかった松村さんも、
今では「『上下』の感覚、重力がない宇宙建築は新鮮な発想を生む。
発展途上国での建築など、地上にも応用でき、奥深い」などと面白がる。

研究会のメンバーで、宇宙建築が専門の
十亀昭人・東海大工学部准教授(39)は、宇宙建築を文系学生が
科学に関心を持つきっかけにしてもらおうと取り組んでいる。

十亀さんは、同大法学部1年生の特別授業で、
学生たちに宇宙開発を“体験”してもらった。
自身が考案した「ソガメ折り」で、折りたたんだ小さな星形のリング。
この端を引っ張ると、むくむくと膨らんで大きな筒状に。

宇宙を行き来する交通手段は、有人宇宙船か無人ロケットしかなく、
大きな容積の荷物を運ぶのは難しい。
ソガメ折りを使えば、宇宙ステーションなど人が宇宙で生活するほどの
巨大な構造物を小さく折りたたんで、宇宙で広げるだけでいい。

この不思議な「折り紙」は、学生の関心を引いた。
十亀准教授が、「将来の宇宙技術に応用できる」と解説すると、
枝村雄気さん(18)は、「人間が宇宙に活動領域を広げる上で、
この折り方が必要になってくると思うと、興味がわく」

「宇宙は、漫画や映画でも目に触れる。
科学の入り口として親しみやすい」と十亀准教授。
研究会は、高校生や一般人向けにわかりやすく宇宙を取りあげた
「宇宙で暮らす道具学」(雲母書房)を出版予定。

現在は不可能でもいつかは、という前向きな構想が、
夢をふくらませていく。

◆ソガメ折り

1997年、十亀准教授が考案。
星形のリング状に小さくたたまれたリングの端を引くと、
大きく膨らんだ筒状の構造物になる。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090616-OYT8T00438.htm

0 件のコメント: